「なあそういえば、小西の恋人って会社に呼ばないのか?
俺達にも紹介しろよ。」
大学で知り合った、五木に言われそちらを向く。
「んー、今あったじゃんか。」
俺に言われ思わず目を見開く五木に吹き出しそうになる。
「だって、あれ、浮気じゃっ!?」
「いや、あり得ないな。」
前に、佐紀に言われた言葉を思い出す。
俊介はそんな、生半可な覚悟で俺と付き合っていないことは、これまでのことで嫌っていう程分かっていた。
他の誰を敵に回しても、なんて陳腐なセリフが頭に浮かぶ。
「じゃあ、あれは……。」
「ああ、昨日ナンパされたから。
多分、付きまとわれてるんだろう。」
心底面倒臭そうにこちらと俊介の走っていった方をみて追いかけて行った、確か前島と名乗った男は、別に俺に敵対心を持っている感じも俊介を心配した様子も無かった。
同じ能力を持つ俊介に興味がある程度のものだろう。
「って、なに普通に言ってるんだよ!」
五木が憤慨したみたいに語気を強めた。
「えー、だって、俊介も男だよ。駄目なら逃げる位するでしょ。」
「お前、もうちょっと、恋人に優しくしてやれよ。」
溜息をつきながら、五木が言った。
「同性愛がばれたからだと思ったけど、俊介君泣きそうだったじゃねーか。」
五木に言われ、追いかけようかと思う。
まだ、そんなに遠くへは行ってはいないだろう。糸をたどればそれほど難しいことでは無い。
そこまで考えたところで、一つの可能性に行きつく。
あの男も同じ様に糸をたどったのではないか。
俊介も自分の糸をその辺に良くひっかけて固定していた。
あの男も同じことができるなら、自分の糸でも判別が付く他人の糸でもいい。俺と俊介を繋ぐ糸が汚された気分になる。
俊介の様子から、今日はもう真っ直ぐ家に帰るだろうし、連絡先を聞き出そうとか、わざわざ送って俊介の家を確認しようとかそんな事をする様には思えなかった。
「ねえ、五木明日仕事も大学も休みにしたいんだけど。」
五木はこちらをみて、眉根を寄せた後、スマホを操作した。
「とりあえず、これからの打ち合わせ、ちゃんとこなせ。
それから、今日はまともに帰れなくなるけどそれでいいか?」
「五木、ありがとー。」
俺が笑うと、五木の眉間のしわが深くなった気がした。
明日、前島という男が俊介の元を訊ねるか否かはどうでもよかった。
いれば釘をさすし、いなければ二度と縁が無いように糸を俊介に外させる。
それから、久しぶりにゆっくり二人ですごそう。
最近は忙しすぎたのだ。
それで、これからの事を話そう。
会社が軌道に乗ったら、一緒に暮そうって言おう。
大学に上がるときには親の金だからと固辞されてしまったから今度こそ同棲に持ち込もう。
そう決めて、打ち合わせに向かった。