涙が出そうになった。
何でここにいるんだろうとか、色々考えるけど、それよりもただ、この人がここにいることが嬉しかった。
「ッチ……。」
前島が舌打ちをした。
「そもそも、俊介はお前の事見て無かっただろ。」
ため息交じりで大地さんに言われ、前島は「大した自信だな。」と笑った。
「羨ましいのか、妬ましいのかなんなのか知らないけど、大した気持ちも無いのに、俊介にちょっかい出すんじゃねーよ。」
強い語気で言った言葉に周りの視線が集中した。
そこでようやく、ここが往来だったことを思い出す。
「ちょっ……、ここ外ですよ!」
慌てて離れようとするのに上手くいかない。
前にこんなことがあったが、あれは外の世界と隔離された学園でのことだ。
「俺は気にならないから。」
そういう訳で頑張っても無駄だよ。いつもの穏やかな話し方に戻った大地さんは前島に言った。
前島は大きくため息をついた後、何も言わずその場から立ち去った。
「……済みませんでした。」
忙しかったのに、迷惑をかけてしまった。昨日はまるで周りから前島とのデートのようだと思われてしまった。
それより、何より、この人に誤解させてしまってかもしれなくて、いらぬ手間を取らせてしまったことが申し訳なかった。
「えー、どうせ強引に付きまとわれたんでしょ。
大丈夫だよ。」
俺を抱きしめた腕を一度離した大地さんは、くるりと俺を自分の方へ向けて頭を撫でた。
「忙しくてあんまり会えなくて、ごめんな。」
甘やかな声は付き合い始めた頃とあまり変わらない。
俺が我儘になってしまっただけなのだ。慌てて首を横に振る。
「我慢しないで、いいから。」
もうちょっと会うようにしよう。それから良かったら会社にも遊びにきて。仲間に紹介したいし。
そう言ってあの人は笑った。
「……分かりました。」
「本当!楽しみにしてるな。
おっし、頑張って稼ぐからそうしたら一緒に暮そう。」
言われた言葉の意味を頭が理解するまでに、やや時間がかかってしまった。
だって、仕方が無いだろう。そんな風に思ってもらえているなんて知らなかったのだ。
いよいよ泣きそうになってしまった俺に
「とりあえず、今日は俺んち行こうか。」
そう言ってあの人は笑った。
了
お題:切→甘で受け狙いの男子現れて一波乱