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二人とも大学生編
大学生になって、世界が広がったかというと別にそうでも無い。
あの人が大学生で俺が高校生だった頃は全寮制の高校に通ってた所為もあって中々会えなかった。けれど、大学生になった今前よりもあの人に会えているかといったら全くそんな事は無かった。
学生起業をしたばかりのあの人は、ひたすら忙しかったし都会での慣れない生活で俺自身も余裕が無かった。
高校の時と一緒で数日に一回夜電話をして、それから偶に会う位だった。
単なる普通の大学生になってしまった、俺があの人に見捨てられなかっただけマシなのかもしれない。
元々見目麗しい訳でも、会話が面白いタイプでもない。一緒にいて楽しい人間でも無いだろう。
ここまでもったのが奇跡みたいなものだ。
あの人が高校を卒業するときに確実に捨てられるのだと思っていた。良くて自然消滅だと思った。だから、今も奇跡が続いているだけで感謝しなければならない状況だ。
でも最近、どうしても無性にあの人に会いたくなるのだ。
声を聞いてあの人の名前を直接呼びたくなってしまうのだ。
別に長い時間一緒にいたいだとかどこかに行きたいだとか、そういうんじゃなくてただ、一目顔を見たい、夜一人になるとそう思うことが増えた。
弱くなっただけなのかもしれない。欲張りになっただけなのかもしれない。
それが自分にとって好ましい変化だとはとても思えないという事だけは事実だった。
◆
その日は久しぶりに、あの人とあった。
デート、と向こうが思っているのかは分からないけれど、俺は勝手に連絡があってから一人浮かれて、どうせ大して見栄えが良くなる訳でもないのに昨日は長い時間をかけて今日着る洋服を選んでなんて馬鹿みたいなことをしてしまった。
待ち合わせ場所に来たあの人は相変わらず周りの目をひいていた。
気にしても仕方が無いことなので無視して挨拶をする。
一歩一歩、俺のもとに近づいてくる大地さんとの距離がかなり近くなる。
近づいてきたことでお互いの指から伸びる糸が地面から丁度浮いた時、俺と大地さんの間を通ろうとした通行人が、糸につまづいて、転びそうになった。
思わず糸が伸びたのとは反対側の手で、転びそうになった人を引っ張る。
おかげでその人は転ばずに済んだのだが、明らかにおかしな状況に一瞬思考が停止する。
俺と同じ特質の人間だろうか。
思わず、糸の瘤になっている部分を手で握りしめて隠してしまった。
「ん? もしかしてご同類?」
俺の手から伸びる糸を目で追って大地さんを見る。
「糸が繋がってる人が身近にいるなんて珍しいな。」
軽い口調で言われ、本当に見えているのだと気が付く。
足を引っかけたという事は恐らく、俺と同じで触ることもできるのだろう。
あの痕を隠してしまって良かった。
これを見られることも触られることも嫌だった。
だって、これは2人だけの、俺とあの人だけの我儘の結果で、他の人間に入り込んでは欲しくなかった。
「うわー、珍しいこともあるもんだな!
滅多にいないだろう。これが見える人間は。」
その人は自分の糸を指ごとひらひらとさせて言う。
「俺、前島っていうんだけど、この後予定ある?」
「悪いけど、予定はあるんだけど。」
大地さんが、前島と名乗った男の間に割って入って糸の伸びる小指をチラリと見た後答える。
「あれ?もしかして……。」
面白いものを見つけたという表情で笑った前島は「へえ。」と言ったきり黙ってしまった。
「じゃあ、今日はいいや。」
へらりと笑った前島は「じゃあ、またね。」と言ってその場を離れた。
時々いる、同じ様に糸が見える人間と偶然街中ですれ違った。それだけのことだと思っていた。