先程電話でいた場所の最寄り駅に降り立つ。
糸をたぐりながら一心不乱に走る。
ただ、この糸の先へ向かって進んでいく。
果たしてあの人は最初にいたであろう場所からさほど離れて無い場所にいた。
けれど、写真が撮られた場所からは少し離れていて多分糸をたどらなければたどり着けない場所にいた。
写真に写っていた女性はもういない。
「俊介。試す様な真似をしてごめん。」
小西先輩がいたのは一軒のカフェだった。丁度なのかあの人がその状況を作ったのかは分からないけれど他に客はいない。
あの人が座っている席は店員からも遠い。
だからといって、突然謝りだしたあの人を見て慌ててしまう。
「怖がっていた、俺がいけないんです。」
ずっと言えなかった謝罪の言葉がするりと出てくる。
息は切れていて、とても聞きづらかったろうに小西先輩はきちんと聞きとってくれた様で眉を寄せて困ったみたいな笑い方をしているあの人と目があう。
「俊介を試す様な真似をしてごめん。」
小西先輩はそう言って俺に謝った。
一緒にいた女性は大学関係の知り合いで別にただの友人な事。
俺が女の人の話をしてすぐにクラスメイトの存在に気が付いたのに何も事情を説明しなかったことを謝られた。
「元はといえば、小西先輩にいつも信用してって言われているのに勝手に一人で決めつけているのがいけないので。
ただ、アンタに迷惑をかけたくないだけなのに……。」
「少しずつでも、信用してもらえる様に頑張るよ。
とか言って、今回も俊介を試す様な真似してるんだから世話無いよな。」
連絡しなかったのもゴメン。そう謝られて首を横に振る。
それから、あの人の手を取って、糸がくくり付けられている小指に唇を落とす。
舌で糸の膨らみを確認すると、唇を離す。
あの人の顔を確認すると真っ赤な顔をして俺の事を見下ろしていた。
鞄から、小さな箱を取り出してあの人に渡す。
「これって……。」
「不格好で済みません。」
差し出したのは出来上がったばかりの指輪だ。
一応プラチナの細い指輪はあの人の小指のサイズに合わせて俺が作ったものだ。
粘土の様なものから作れるとは知らなかったけれど、初めてだったこともありやや歪な形に出来上がっている。
「そんな事ないよ。」
あの人はすぐに指に指輪をはめる。
迷わず糸が絡みついているその指にはめた指輪はサイズだけは丁度ぴったりで安心する。
「すごくうれしい。ありがとう俊介。」
満面の笑みで言われて、背中がくすぐったい様な居心地の悪さをどうしても感じてしまう。
それでも。
「喜んでもらえたなら嬉しいです。大地、さん。」
そこで、一歩引いてしまうことがあの人の本位でないこと位もう分かっている。
初めてきちんと呼ぶあの人の名前はぎこちなく聞こえる。
だけどそんな事でもあの人はとろけるような笑顔を浮かべる。
一旦店を出ようと言われ店を出たとたん、ニコニコと話かけられる。
「今日、俊介このまま俺んち泊まっていきなよ。」
「いや、あのなんの準備もしてないですし。」
「パンツならコンビニで買ってあげるから。」
上機嫌なあの人に俺はただ頷くことしかできなかった。
了