パンシザワンドロ

※パンシザ ワンライツ企画で構想含めて1時間以内で書いているのでお手柔らかにお願いします。

「結婚の綴りを教えて欲しい。」

夜、つつましい夕食を終え客に捨てる予定だと言われ譲られた本をアベルが読んでいるとランデルに声をかけられた。

どうしてもわからない字は教えてやると言って以来時々こうやって聞いてくる様になった。
自分の為に努力をする人間は好きだ。

ランデルの横に立つと、すっと彼の持っていたペンを取って紙に綴りを書いた。

代筆業をするにしても、よく使われる言葉というのがあってそれは、金を無心するものと病気や死に関係するもの、後はお祝い事だ。
ランデルの父は医師であった為、医療に関する言葉は身の回りにあふれていた様で殆ど質問をされた事は無かった。

「ありがとう。」

椅子に座って机に向かっていたランデルが見上げるようにアベルに振りかえった。

「いちいち恥ずかしいやつだな。」
「そうかな?」

ランデルは困った様に笑いながら頭をかいた。
少し、おっとりとしたランデルとはっきりした性格のアベルは正に本当の兄弟の様だった。

「ああ、そうだ。」

アベルは自分の持ち物をまとめてある中から、1冊の本を取り出してランデルに渡した。
その本は、アベルの所蔵している本の中では比較的子ども向けのものだった。古本屋に売ってしまおうと思っていたが、何故だか躊躇してしまい基本的に頭に入ってしまえば本そのものに拘らないアベルだったがこれだけはとってあった。

その本をそっとランデルに渡した。

「その本、やるよ。」

アベルは、いつも以上のそっけない口調だった。

「どんな話なんだ?」
「少女が自分以外の全てを投げ打つ話しだ。
……まあ、子供騙しだな。
この言い方は子供に失礼か。」

アベルが言うとランデルは渡された本をマジマジと見つめていた。
その話しは一人の少女が自分の持つ持ち物を一つずつ周りに分け与える。
最後に、神様が見ていて幸せになりましたというご都合主義の話しだ。
現実に誰かが見ていて救われるなんて事が無い事をアベルは良く知っていた。
だが、このお人好しにこそこの本はふさわしいと思ったのだ。

「分からない言葉があれば聞けばいい。
良い文章の訓練になるはずだ。」
「ありがとう、兄弟。」

単語だけでなく、文章の訓練をした方が良いだろうと判断したアベルの気持ちをくんでランデルがヘニャリと笑ってお礼を言った。