エプロン

※王ヴァイ ワンライツ企画提出作品

南雲さんに一緒に手打ちうどんを作らないかと誘われたのはほんの先程で、是枝君は白い食べ物が好きだからきっと気に入りますよと言いながら南雲さんと二人でキッチンへ向かった。

粉が飛びますからと南雲さんに差し出されたのは、一枚のエプロンだった。
それを受け取ると、笑顔のまま南雲さんは「着てくださいね」と言って冷蔵庫の扉を開けていた。

やり方は良く分からないけれど、エプロンをつけてみる。
紐の位置があっているのか間違っているかさえも分からないけれど、兎に角紐を最後に結べばいいのだという事だけは分かっていた。

何とか蝶結びを作ろうと、悪戦苦闘していると南雲さんが戻ってきた。

僕の惨事に唐沢さんとのネクタイのことを思い出したのか、南雲さんはクスクスと少し笑った後、手伝いますよと、紐をほどいた。

「こうやってやるんですよ。」

優し気な声で南雲さんは僕の肩に綺麗に紐をかける。
それから腰の後ろに回して、少しだけ紐を引っ張った。
エプロンが綺麗に僕にまとわりついて、少し居心地が悪い。

「手を後ろに回してください。」

こうして、紐をばってんにして、そう、くるっと回して、逆です、そう、一つずつ二人で紐を動かして、それで何とか形になったようだった。
けれど背中なのでどうなったかは見えない。

撫でる様に結び目に手をのばすと、南雲さんが「ああ」と納得して、縦に長い鏡の前まで連れていってくれた。

「姿見なら見えますよ。よこ向いてみてください。」

南雲さんに言われ角度を少し変えると見たことのあるリボンの形が見えた。
左右非対称で角度が多分95度ほど垂直方向に曲がっているけれど、それは一応僕の知っている形をしていた。

嬉しくなって、南雲さんにもう一度見てもらう。

「さて、はじめましょうか。」

南雲さんは腕まくりをしてキッチンに戻っていく。
その後ろを歩く、僕の足取りはいつもより少しだけ軽やかだった。

END

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