「殺してくれますか?」
理一が訊ねる。一総は暫く黙って、理一を見つめていた。
「やっぱり駄目ですか?」
直接ではないにしろ人を殺すのだ。一般的に異能での殺人も殺したという扱いになる。
さすがにハードルが高いのだろうか。
「殺すのが嫌な訳じゃない。」
一総は頭をかいた後、理一の頭からつま先まで確認をする様に眺めた。
「体はもう大丈夫だな?じゃあ、道場にいこうか。」
学園には武道用の建物がある。畳敷きのホールの様な建物は生徒たちの間で道場と呼ばれている。
「いやいやいや、何しに行くんですかそんなとこ。」
理一が返すと一総はふはっと噴き出して笑った。
「いつもの変な敬語じゃないんだな。」
「そんな事より何しに行くんですか?」
嫌な予感がして、理一は再び聞き直す。
「え?ああ、お前をたおしに。」
冗談みたいなことを普通に言った一総に、理一は訝し気に見つめ返す。
「今までちゃんと俺の話聞いてました?って、うぉ!?」
理一が言い終わるやいなや、一総は理一腕を引っ張って、うつ伏せにする。
そのまま、腕を背中側に回して関節をキメる。
腕が動かせなくなった理一は頭だけ振り返って一総を見上げた。
「力入れてもいいぞ。
恐らくだけど、意味は無いと思うけど。」
一総の言う通り、腕に力を入れてもびくともしない。
「最初からお前を殺すのに必要なものなんかなにも無いんだよ。」
吐き捨てる様に一総は言う。
もう一度、今度はきちんと御仁としての力を発動させるが動かない。
「それがあなたの異能ですか?」
「異能っていうか、人体のプロフェッショナルだからな。
武器とか使われなきゃ大体何とかなるんだよ。」
相変わらず苛立った様子だった。
「でもそれ、解除するつもりないですよ。」
それに簡単に解除できるものでもなかった。
一総は長い長い溜息をついた後手を離した。
「道場はもういいし、胸のこれもとりあえずはそのままでいい。」
だから、もう少し俺のことを信用してくれ。
覆いかぶさって耳元で言われた言葉にゾクリとしてしまって、思わず身をよじる。
まるで、睦言のような反応をしてしまったことが恥ずかしすぎて理一はしばらく顔があげられなかった。