35

理一が目を覚ますと、ベッドの上だった。
横には一総がベッドのふちに腰掛けて、理一の頭を撫でている。

その表情は理一が今までで見た中で一番優しい。

「起きたか。」

そう言いながら髪の毛をすく手は離れない。

「何も言わずにぶっ倒れて済みません。」

理一が言うと、一総の手が止まった。
一総は腰を支えて理一を起こした。

「信頼してくれてありがとう。」

最初にお礼を言われるとは思っていなかった。
さっきのは何だと聞かれるか、意思を尊重しなかったと怒られるかそのあたりだろうと思っていた。

「そういうんじゃないっすよ。」

俯いたまま理一は返した。

「それ、聞かないんすか?」

今は着ているシャツでほとんど見えないが、一総の胸元には先程までは無かった赤い文様が刺青の様に浮かび上がっている。
今は着ているシャツでほとんど見えないが

「これか? だって教えてくれるんだろう?」

一総は着ていたシャツを引っ張る様な仕草をしてから、カラカラと笑った。

不安はなさそうに見えた。

「それ、御仁の契約の証です。」
「ああ、たまに聞くな。ボディガードをしていた御仁の一族の者とその家の当主が契約を結んだと。」

だけど、あれは確か手の甲じゃなかったか?当たり前の様に一般的な文様の出る位置を知っている一総は恐らく仕事か何かで実物を見たことがあるのかもしれない。

元々、隠すつもりもない。

「それは普通の契約ですね。
俺は先祖返りなのとそれから……。」

それでも言いよどんでしまった理一に、一総は殊更優しい表情を浮かべ手を握った。
それに勇気づけられた格好で、理一は再び口を開く。

「アンタが知ってる手の刻印はあれは対等の証で、こっちは従属なんすわ。」
「それは、木戸が俺に従属しているという意味か?」
「そうですね。」

そこで初めて一総の眉間にしわが寄る。

「で、これで俺は何ができる?」

一息に核心を聞く一総に理一は本当にこの人は頭がいいと思う。

「俺に命令が。言霊みたいなもんですよ、絶対服従の命令が出せます。」

それこそ、死ねって言われたら確実に死ねるみたいな。理一は笑った。
その笑顔は、妖艶だった。それこそ花島的な表情だった。

「ふーん。じゃあ、お手。」

一総が手を差し出してそういうと、間髪入れず理一のてがそこに差し出される。
けれど、一総は笑いはしなかった。

「これ、命令する側もかなり体力持っていかれるだろ。」
「まあ、反発する気持ちがこっちにあった場合はそれを押さえつけるために必要でしょうね。
こんな契約今までした人間ほぼ居ないので知りませんでしたが。」

理一は不思議そうに一総を見た。
特に息が切れた様子も顔色が悪くなっている訳でもなかった。

「で、使用回数に制限は俺の体力だけか?」
「特に回数制限の話は聞いたこと無いっす。妖精の契約みたいに3回なんて事はないはずですよ。」

一総はそれを聞くと漸く、溜息をついた。

「で、いつかこれで俺はお前を殺してやれば良いのか?」

浮かべた顔は、先程セックスをしていた時の高校生らしい顔では無く、花島としての妖艶な笑みだった。

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