部屋に戻ると、一総はすでに軽く服を着て、先程まで性行為に及んでいた余韻等何も残してはいなかった。
ベッドも綺麗に片づけられていて、先程までのことは夢だったのではないかと理一は思う。
実際はそんなことはないし、自分自身の体に残る余韻が事実だったと訴えている。
セックスはこれが初めてではないのだ。
一総はあっけらかんと笑いながら、ペットボトルの水を理一に投げてよこした。
それを受け取って口をつける。
普通の部屋に遊びに来た友達にするみたいだった。
「折角綺麗だったのにな。」
「は?」
「瞳の色。もう茶色に戻ってるな。」
言われて、漸く何の話なのか気が付いた。ずっと何も言われなかったのであえて避けているのかとも思っていた。
美しい生き物だと言われたが、化け物じみている自覚が理一にはあった。
「気持ちが昂ると色が変わるから。
普段は普通の色なので。」
「ふーん。」
じゃあ、あの色を見ている人間は少ないってことか。
嬉しそうに言われてくすぐったい気分になる。
あまりにも一総が普通に言うので、理一はなんていったらいいのか分からない。
「赤い色は、特別変異種か?それとも先祖返りか?」
「先祖返りですね。化け物みたいでしょう?」
「どこが?
御仁の瞳の色が変わる話は俺も知っている。」
何と言ったらいいかわからず理一はペットボトルの水を飲みほした。
「お前は美しいよ。」
口に水を含んでいなくて良かった。含んでいたら間違いなく噴き出していただろう。
一総がリップサービスで無く普通に言ったことに驚いた。
そして、その言葉を理一は疑った。
自分をどう見せれば、周りから評価されるかを知り尽くしているであろう一総のセリフだとは思えなかった。
「あんたは本当に俺の為なら何でもするつもりなのか?」
タオルでおざなりに拭かれた理一の髪の毛からは滴がポタリ、ポタリと垂れている。
「ああ、そのつもりだとさっきも言っただろう。」
心外だという調子で一総は答える。
「じゃあ、俺が死ねと言ったら死ぬのか?」
まるで子供の喧嘩だと理一は思った。
「お前が本気でそう願うならそうしよう。」
一総は全く動じている様子は無かった。
手のひらの上で転がされている様な錯覚を理一は受ける。
一総が花島の人間な所為もあるのだろうか。
どこまで計算で答えていて、どこまでが一総の本音なのかは分からなかった。
否、一つだけ方法があった。
理一にしかできない、理一だけの方法が。
「これから、少しの間、抵抗しないで欲しいです。
試す様な真似をして、すみません。」
そう言うと、ゆらゆらと理一の瞳は紅に変わった。