ベッドで向き合うと気恥しい。
いつもの様な、頭の芯がしびれる感じもなかった。
「キス、していいか?」
一総は、そっと理一の頬に手を触れた。
その手は、しっとりと汗ばんでいて暖かい。
今までそんな風に感じたことは無かった。
もっと、現実味の無い行為の筈だった。
それが、花島の力ゆえのことだとは分かっていたのに、いざこうして花島一総と向かい合うと、叫び出したくなる。
強制されて始めた関係ではなかった。
今も別に逃げ出してしまおうと思えば逃げ出せる。
けれど、理一はここで一総を突き放してしまうことこそが怖かったのだ。
理一を馬鹿にせず、怖がらず、畏怖も、憧憬も何もない。
そんな人間を理一は知らなかった。
花島として、人を凋落させることを生業とするものとして何かを見透かしたのかは聞いたことがないので、理一は知らない。
しかし、こうやって妖艶さのかけらもない一総と対峙して今までの関係がいかに一総の力で成り立っていたのかが分かる。
ややあって、理一の唇に一総の唇が重なった。
手入れされているのであろう柔らかなそれは熱く、理一はブワリと血液の温度が上がった気がした。
何もかもがリアルだった。
一総は一度唇を離すと、もう一度キスを落とした。
まるで神聖な儀式のようだなと思った。
何度かキスを落とされた後、舌が入ってくる。
理一が一総とキスをするのはこれが初めてでも何でもない。
いつもは甘露を飲まされるように甘く感じていた唾液は今は、何の味もしない。
だが、逆にそれがたまらない。
もっとと強請る様に理一が舌を差し出すと、頬に添えられた手に力がこもる気がした。
そのまま舌を絡めて唾液を送りあう。
舌の先がジンと痺れる。
鼻から抜けるような声が出てしまうのはいつものことだった。
だが、それを聞いた一総が喉の奥で笑ったのは初めてのことだ。
行為の最中に笑われたことは幾度もあった。だがそれは全て蠱惑的な笑みで、こんな風に普通の高校生みたいに笑うことは無かったのだ。
感じやすい部分はもう熟知されていて、上あごをなぞられた。
理一は思わず、一総の肩を握りしめた。
だが、それは大した力にならず。ああ、花島の力はこういうことなのかと漠然と思った。
いやらしいものでも、洗脳でもない、一総の力を見て理一は一総の背中に手を回した。
今一総が使っている異能は恐らく受け流す力なのだろう。
一総に対して、恋愛感情があるかと言われれば否だ。
だが、それでも縋りたくなってしまったのだ。
一総は一瞬身を固くして、それから理一をきつく抱きしめた。
まるで恋人同士のようだと自分のことなのに理一は他人事の様に思った。