「あり得ない。」
理一は最初にそう思った。
そもそも、たまに声をかけられる程度の仲だったのだ。
その時に、褥に誘われることはあったが、それはほかの人にもいた。見たこともある。
まるで、挨拶の様な、冗談の様な話だった。
だからこそ、理一はあの時、一色純に恋人ができた時に、こちらも冗談めかして聞けたのだ。
「別に、セックスしなくても仕事はできるんだ。
花島の本質はセックスをすることじゃないから。」
ぶっきらぼうに一総に言われ、意味が分からなかった。
だって、一総の周りからの評価はその妖艶さからのものではないのか。
それも仕事の一環で一総の一部ではないのか。
一総の気持ちをどうとらえるかの前に、そもそも一総が本当のことを言っているのか、それが疑わしくて仕方が無かった。
ただ、一総が理一に嘘をついて何か意味があるのかといわれても理一には分からなかった。
理一は訝しげに眉根を寄せ、もう一度一総の顔を確認した。
少なくとも妖艶という形容詞からは一総の顔はほど遠い様に見えた。
「セックスしようか。」
突然、一総は言い出した。
「突然、何を言ってるんすか?」
先程から、もはや言っていることが支離滅裂だ。
「いいだろ。俺の言ってることが本当だって見せてやるよ。」
それに、一回位俺がしたいって理由でしてもいいだろう。一総は畳みかける様に言った。
「完全に、思考放棄だろ、それ。」
敬語が完全に取れた理一が聞く。
「思考放棄以外の理由でお前が俺に抱かれたことあったか?」
友達に言う気軽さで一総が言った。
気が付かれている。薄々その可能性は分かっていたが、こうやって直接言われるとさすがに心が揺れた。
バクバクと心臓がなっている。
この人は、全部分かっていてそれで、自分の戯言に付き合ってくれていたのだろうか。
「俺のことを誰かに聞いたのか?」
「は?誰かにお前の事を紹介なんぞされてないし、そもそも仕事でもないからな。」
直ぐに答えた一総に理一は一度深く深く深呼吸をした。
それから「しますか、セックス。」と言った。
「コンタクト外していいか?」
理一が聞くと、初めて一総が少し驚いた表情をした。
「いいのか?」
「まあ、俺が化け物だって分かるだけの事なんで。」
理一はなれた手つきでコンタクトを外すがその瞳は未だこげ茶色のままだった。
「人に言わせると俺も化け物みたいな物らしからな。」
一総は理一の言葉を肯定も否定もしなかった。
「ベッドでいいか?」
「俺はどこでも構わない。」
「最初みたいに、自分の部屋がいいって言わないんだな。」
「あんたの能力に、こっちの能力のかなりの部分、意味をなさないから。」
だからこそ、何度も頼めたのだ。
「ふーん。」
つまらなそうに、一総は返した。
「さっさとするならしましょう。」
色気もへったくれも無い、理一の誘いにようやく一総は立ち上がった。