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「お前、こんな時に冗談とはほとほと呆れた男だな。」

眉を顰めながら、昭則は言った。

「なあ、会長。」

呟くように理一は口を動かした。
だが、一総には聞こえているという自信があった。

恐らく彼の異能であればこの程度の距離は関係なく聞こえてる筈だ。

案の定、一総は先程より更に笑みを深めこちらに向かってきた。

「木戸……は二人いるな、“理一”どうした?」

わざとだろう。理一の名前に力を込めるようにして一総は理一の肩を抱いた。

「誰がそこまでしろって言ったっすか?」

一総を見て理一は言った。
昭則は目を驚愕に見開いて固まっていた。
周りの取り巻きも、そして白崎もまるで恋人同士かのように自然に理一の肩を抱いた一総に絶句して食い入るように二人を見ていた。
心底居心地が悪く感じて一総のうでを引き剥がす。

一総もこれを予測していた様で、手はなんなく外れた。

さわりだけとはいえ、事情を話していた雷也でさえ驚いた顔をしていた。
ただ、そこに困惑の感情が含まれている気がするのは、理一が雷也に対して引け目があるからだろうか。

「ちょっと、待ってください。昨日花島会長とそこの木戸理一が一緒に居たって言うのはそれの冗談ですよね?」
「何故、槍沢、お前に俺の個人的なことを教えなければいけないかが俺には分からないが。」

そう言うと一総はチラリと理一を見た。
昨日から一総が思っていたことだが相変わらず顔色が優れない。

何故、周りの人間がその事を気にもせずこう言い争えるのかが一総には分からなかった。
いや、一人だけ心配するように理一を見ているものが、もう一人この場に居た。
雷也だ。

「そもそも、それを詮索してどうするんだよ。木戸からは俺が代表としてきちんと出席をした。木戸家の事は木戸家が決めるのが原則だろう。」

雷也の語気が強められた。

「そもそも、俺呼ばれてないから行くわけないだろ?」

心底面倒そうに、理一が言った。
「おい。」とさすがに雷也が理一に声をかけるが、理一は雷也から目をそらした。

「黒、金、銀の御仁は全員召集されてたはずだが?」

昭則は心底馬鹿にしたようだった。

「生憎、俺は黒でも金銀でもないからな。」
「理一!!」

怒鳴るようにして雷也が理一を止めに入った。

「お前、今日本当におかしいぞ!!」

雷也に言われ、理一は黙り込んだ。

「昨日は、理一は俺と居た。特に学園としては問題なかったはずだ。“槍沢昭則”俺はこいつを教室まで連れて行くから、お前らも遅刻しないようにな。」
「お前、学園内での異能の発動は禁止されているはずだぞ!!」

体をこわばらせ唇を戦慄かせながら昭則は言った。

「俺は能力は使っていない。そもそも俺の異能は誰かの行動を制限したりはできないよ。」

花島の能力は周知の事実だ。言外にそう言うと一総は理一に行くぞと言った。
どうすることもできず、ただ理一は一総の後をついていった。

理一の教室の前まで付くと一総は「帰りに迎えに来る」と言った。

「は?嫌っすよ?」

理一が目を細める。

「今日の分は貸しだからな。ちゃんと返してもらわないと。」

とウィンク付きで返されてしまい。言い返すことが出来なかった。

「ちゃんと待ってろよ。」

ひらひらと手を振りながら去っていく一総を呆然と見送った理一だったが周りからの不躾な視線に辟易としてしまいそのまますべてを無視して理一は自分の席へとたどり着くと突っ伏した。

何故、あそこで一総に助けを求めてしまったのか、自分でもよくわからなかった。

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