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朝、目が覚めて他人の部屋で一夜を明かしてしまった事に、理一は僅かながら狼狽した。
体は綺麗になっているし、昨日付けられた鬱血痕はとっくに治癒して跡形も無い。
問題があるとすれば、理一が腕枕をされる形で至近距離で寝ている男についてだ。

落ちる様に眠ってしまった理一の体を綺麗にしたのは間違いなく一総だろう。
それについては感謝している。
だが、何故こんな抱き込まれる様な形で並んで寝ているのだろうか、しかもお互い素っ裸で。
ここは一総の部屋なのだし、ベッドで寝るななんて我儘を言うつもりは理一には無かった。

ただ、この状態がとても居たたまれないのだ。

この男とアナルセックスまでして何をと自分自身も思う。
しかし、性行為に及ぼうという時は何時も酷く追いつめられていて、その時は裸を見られるだとか酷い表情をしているとかそんなものを気にした事は無い。
今は、冷静に状況が見える状態で男の腕の中に納まっている。それだけだ、昨日の夜と何ら違いは無いはずなのに妙に気恥ずかしい気持ちに理一はなった。

理一が身じろぐ様にして一総の腕から抜け出そうとすると、一総も目を覚ました。
急に羞恥心が強く感じる。

目を合わさない様にしながら理一は一総の腕から再度逃げ出そうとした。
本気の力で押せば間違いなく理一が勝つだろう。だが、それでは一総が怪我をしてしまう。御仁の力を使わずすりぬけようとするとどうにも上手くいかない。

「おはよう。」

一総が理一に声をかけた。
逸らしていた視線を一総の顔に向けると、その顔は生徒会長としての凛々しいものでも、性行為に及ぶ時の蠱惑的な物でも無く、ただただ優しいものだった。

もし、理一に兄が居ればこんな感じだったのだろうかと考える。
だが、直ぐに兄とセックスをする弟はおかしいかと自身の考えを否定した。

「おはようございます、先輩。」

理一が声をかけると一総は満足気に笑みを深め、それからそっと腕を離した。

「簡単な物で良ければ作るけど、一緒に朝飯くってかないか?」

一総の申し出に

「済みません、俺はこれで。申し訳無いっす。」

と理一は答える。

「朝のランニングしないと気持ち悪いか?」

だから、何故貴方が、俺の生活パターンを知っているんですか!?喉元まで出かかった言葉を飲みこんで、理一はベッドサイドに畳まれた洋服を着た。
朝食の誘いを断られる事は織り込み済みだったようで、一総は気分を害した様子は無かった。

それが何だか寂しい様な気がして、そして、既に離された腕の中が居心地が良かったよう様な気がして、理一は眉をひそめた。

「また、誘ってもいいか?」
「セックスの事っすか?」
「まあ、それも是非お願いししたいが、一緒に食事をする方の話だ。」
「……気が向いたら。」

そんな風に優しくしないで欲しい。
差し出せる見返りがセックスだけなのだが、それさえも微妙で、面白みも無い男の体しか無いのだ。

クラスメイトの様に、実家の御仁達の様に体よく利用してもらわないと、どうしたらいいのか分からなくなる。

理一は普段浮かべる人好きのする笑みでは無く、困った様な笑みを浮かべ、逃げ出す様に一総の部屋を後にした。

一総と居ると自分が自分で無くなる気がした。
それは、九十九としての暴力的な感情に支配されるのとはまるで違ったが、理一を不安にさせた。

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