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「おい、リーチ。木戸さんが呼んでるぞ。」
「おう!!って俺も木戸なんすけどね。」
「馬鹿、木戸さんの名前なんて、そんな気軽に呼べるかよ!!」

理一が、教室で友人達とと話しているとクラスメイトに呼ばれた。
教室の出入り口を見るとそこには、金色に近い茶髪に、着崩した制服、そしてモデルにでもなれそうな容貌した少年が居た。彼が理一を呼び出した木戸 雷也(きど らいや)だ。

「ライ、どうしたんだ?」

理一は椅子から立ち上がり、雷也の方に向かった。
理一と雷也は従兄同士だ。だからこその馴れ馴れしさであるのだが、それを良しとしない物も多い。

「クズ御仁が…。」

ひそひそと陰口をたたくクラスメイトもいるが、雷也は勿論、理一にも気にした様子はない。

「中庭にでも行くか?」

理一が提案すると「そうだな。」と雷也と歩きはじめる。
理一は歩きながら雷也の顔をのぞき込んだ。

「カラコン変えたのか?」

その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
理一は人前では笑顔の事が多い。クラスでのポジションはお調子者よりの頼れるお兄ちゃんというところだ。
そんないつもの笑みとは少し違う、見る人が見れば、どこか壊れたような笑みを理一は浮かべていた。

「変えてねーよ。」

それに対して、雷也は驚く訳でも困惑する訳でもなく、むしろ安心したように見えた。
その後も理一は上機嫌のまま、二人は中庭に着いた。

「で、話ってなんだよ?」
「一色 純の事だ。」
「それがどうしたんだ?」
「……東風と付き合っていると聞いた。」
「そうみたいだぞ。二人で挨拶に来たよ。」

自嘲するような笑みを理一は浮かべた。

「……お前はそれでいいのかよ。」
「いいも、何も、ねえ。」
「だって、お前、一色の事……。」
「ライは飼い殺し推奨派だっけ?」

遮るように理一が言った言葉に雷也は絶句した。

「でも、お前、大丈夫なのか?」

心配そうに雷也が訊ねる。

「大丈夫だよ。」

笑って理一が答えた。

「本当なのか?」

何かを確かめるように雷也が理一の瞳を見た。
理一は降参という風に手を上げ

「性欲さえ満たせれば何とかある程度は何とかなるみたいだね。」

と言って笑みを深めた。

「性欲ってお前、まさか!!」
「別に、行方不明者も怪我人も出て無いはずだよ。」
「じゃあ……。」
「花島会長と、ね。」

雷也は目を見開いて固まった。
それほど、理一の発言は雷也の予想の斜め上を行っていたのだ。

「それより、本題は何だよ?」

固まっている雷也に理一は話しかける。
ハッと気が付いて雷也は舌打ちをする。

「当主様が『一度帰って来い』とのことだ。」
「親父が?」
「ああ。」
「一体何の用だ。」
「……恐らく、白崎家の事だと思う。」

理一が言葉を発しようとしたその時、二人の元に駆け寄ってくる者があった。

「木戸!!」

それが今丁度話しに出ていた白崎家の白崎 清志(しらさき きよし)だったので二人は若干身構えた。
理一は先ほどまでたたえていた笑みを引っ込めいつもの人当たりの良い笑みを浮かべながら清志に話しかけた。

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