そう言えば圭吾さんは帰省ってされないんですか?
母からたまには帰る様にというメールが丁度きて、何気なく聞く。
「ああ、俺ゲイってばれて勘当されてるから。」
まるで当たり前のことを伝えるみたいに言われて、ショックを受ける。
多分表情も固まっていたのだろう、それに気が付いた圭吾さんが慌てて付け足す。
「うちの親は古いタイプだったし、こっちの伝え方も最悪だったから。」
カミングアウトして、仲良くやってるやつも沢山いるよ。と圭吾さんは笑った。
「辛くないんですか?」
俺が聞くと、圭吾さんは困り顔のまま、もう一度笑顔を浮かべた。
「まあ、当時は少し荒れたし、どうせずっと一人だろうって住むところも、車も何もかも好き勝手してたけどね。
今はきちんと生活してるよ。」
それが、俺と付き合い始めたからだというのはなんとなく分かった。
俺は、自分の両親に、ゲイであることも男の恋人がいることも伝えてはいない。
伝えるかを考えたことが無いと言えば嘘になるけれど、具体的なことは何もなかった。
好きだって気持ちだけじゃどうしようもないことがあるということは、圭吾さんの退職騒動で身に染みている。
俺の好きな人は家族がいなくなってしまったという事実に、胸の奥が締め付けられる。
両親と仲直りすればいい。なんて簡単な問題じゃないことも分かる。
嫌悪に変わってしまった感情がどうにかなることの方が少ない。
「俺が家族になるんじゃダメですか?」
ぽつりと口をついて出たのはそんな一言だった。
圭吾さんを見ると目をこれでもかという位見開いて驚いている様だった。
言ってから初めて、さすがに重たすぎたと気が付いた。
「い、いや、あの、忘れてください!」
慌てて訂正したつもりが、圭吾さんに抱きしめられる。
痛い位に抱きしめられた腕がわずかに震えているのに気づいて、俺も圭吾さんの背中に腕を伸ばした。