劣等感

正に忙殺という状況が続いて、漸く文化祭当日を迎えた。
文化祭は一般公開日と学内公開日と一日ずつ用意されていて、開会式は一般公開日に行われる。

だから、今日は羽目を外す人間もおらず、皆、きちんとしている。
とはいえ、普通ではつまらないというのが我らが会長様の談で生徒会の役員はテーマに沿った仮装をすることになっている。

当然、ペアを組むことになる俊介もそろいの恰好をする訳で、衣装の準備を依頼した親衛隊長以下数名に更衣室になっている教室に連れていかれていた。

「しばらく入ってこないでくださいね。」

そう言われたのと、実際役員の仕事は当日も山の様にあったため15分ほど後に、更衣室をのぞく。

もう仲良くなっている風に見える親衛隊と俊介を見て、嫉妬心だろうか、独占欲だろうか、が心の内に湧き上がるのを感じるがさすがに表に出す様なことはしなかった。

いつもいつも、俊介を独り占めしたい気持ちでいっぱいだったが、それを全面に出して彼の世界をぶち壊してしまうのも怖かった。

「わー、良い感じじゃんか。」

知性がテーマのため、俺がホームズ、俊介がワトソンに扮する。
といっても、アレンジが加えられた衣装で、スチームパンク風のイギリスといった恰好をした俊介は可愛かった。

俯いて顔を赤くする俊介は恥ずかしい様だったが、その仕草を含めたまらなく可愛いと思った。

「鼻の下伸びていますよ。」

隊長に言われおもわず照れ笑いをした。
俊介は俺を見ると、「本当に俺でいいんですか?」と消えそうな声で聞く。

「俊介じゃないと嫌なんですー。」

俺が答えると、俊介は唇を噛む。
彼が自分のなにに自信が無いのかは知らない。

容姿のことなのかもしれないし、男であることなのかもしれない。
他に理由があるのかもしれない。

それを知りたくないと言えば嘘になる。
けれど、暴いたところで意味があるとは思えなかった。

少しずつ、俺の気持ちを信じてもらって、それから俊介自身が自分と向き合うことなんだろう。
だから、気が付かない振りをして手を差し出した。

「行こうか?」

俊介は目を細めると、一回だけ静かに頷いた。

結果から言うと、俊介はぎこちない所作だったもののパートナーとしてきちんとやり遂げた。
クイズゲームのアシスタントも、入場時のエスコートも歓声で迎えられた。

誰も、俊介を拒絶していない。
日中、お互いにクラスの出し物をやっているときも、クラスメイトと仲良くやっていたそうだ。

だから、彼は褒められこそすれ、こんなに憔悴しきる必要はないのだ。

後夜祭に向かうための衣装に着替えた、俊介は疲れた様子で、それよりも何よりもひどく落ち込んでいた。

「役立たずで、済みません。」

俊介は、うなだれて言った。

「俊介は、とっても頑張っていたし、助かったよ?」

俺が返すと、俊介は首を横に振る。

「そんなこと無いです。」

俊介は消えそうな声で言う。

「俺は最後の文化祭俊介と過ごせて良かったよ。
最高の思い出だよ。」

だから、最後まで一緒に頑張ろう。
俺が言うと、泣きそうな顔で俊介は俺を見た。

「だって、俺はっ……。」

半ば泣きかけで、俊介は唇を戦慄かせた。
それでも言葉にならない様で俊介は、直ぐに唇を噛む。

「はい、それ駄目だよ。」

丁度二人きりだった。
俊介の顔に自分の顔を近づけて、唇を舐める。

「俊介と頑張りたいから、もうちょっとだけ頑張れる?」

顔を近づけたまま、俺が訊ねると、俊介は顔をほのかに赤くしたままま

「アンタ、ホントずるいよな。」

とだけ答えた。
それが、まるで俺のことを大好きです。って言っているみたいに聞こえて、そのまま俊介を抱き上げる。

所謂お姫様抱っこの状態になって慌てる俊介に笑いかけると、そのままステージ脇まで歩いていく。

「おろしてください。
いや、今すぐ降ろして!?」
「やだよー。」

そのまま、ステージに出ると、悲鳴に近い歓声で出迎えられる。
俊介は顔を隠すように俯いたままだ。

「かわいー」という声が聞こえて眉根が寄るのが分かる。
俊介が可愛いというのは事実だが、これは誤算だった。

彼が可愛いことを知っているのは世界で自分だけで充分なのだ。

「俊介は、俺のだから、駄目だよー。」

服につけた、マイク越しにそいつらをけん制する。
落ちない為に俺の服を握っていた俊介の手の力が少しだけ強くなった気がした。

滞り無く文化祭は終わった。
生徒会の打ち上げは翌日夜の予定なので早々に俊介と二人、部屋に引き上げさせてもらった。

お祭りの後のふわふわとした高揚感の中、俺の部屋に戻る。
冷蔵庫に入れておいた、ミネラルウォーターを出して一本俊介に渡す。

それを無言で受け取った俊介はうつむいたまま

「何で、あんなこと言ったんですか?」

と聞いた。

「あんなこと?」

正直いって全く心あたりは無かった。

「俺のって……。」

俊介は唇をまた、噛んでいた。

「だって、俺のだって言いたかったんだよ。」

彼が何を気にしているのかは知らないけれど、それを全部取っ払って俺のことしか考えられない様にしてしまいたかった。

自分の分の水を置くと、俊介を抱きしめる。
そっと、背中をなでると最初は体を固くしていたのに、徐々に力が抜けていく。

「二日間ありがとうね。」
「俺、何もしていません。」
「そんなこと無いよ。俊介が居たから俺頑張れたよ。」

何もしていないなんて事、あるはずがないのに、俊介は気にしている様だった。

「少なくとも俺は最高の文化祭だったからいいんです!」

何を言ってもきっと俊介は認めてくれないから、正直な自分の気持ちを言う。俺が楽しかったんだから、俺としてはそれでいい。

「だって、俺は、貴方にふさわしくない。」

その言葉を聞いて、プツンの頭の中で何かが切れた。

「そんなの誰にも決められたくない。」

自分の口をついて出たのは、自分で思ったより怒っている声で、その声に俊介がビクリと震えるのが分かった。

「俺に、誰がふさわしいのかなんて、俺が決めるよ。」

先程の後夜祭の時と同じ様に、俊介を抱き上げて寝室へ行く。
腕の中の俊介は小刻みに震えていて、何がそんなに不安なんだと言ってしまいたかった。

「好きだよ。俊介が好きだ。
俊介以外考えられない。」

だから、ふさわしいかどうかなんて事で悩まないで欲しかった。

「そもそも、誰が何と言おうと、俊介がなんて言おうと、おれ多分もう俊介以外好きになれないよ。」

そんなこと自分自身が良く知っていた。
それに、俊介がいい人でかわいいから好きになったんじゃないことは自分自身が一番良く知っている。

シャツのボタンを手際よく外していると、俊介が「何でこの状態でボタンはずしてるんですか?」と聞いてくる。

「え?だって明日久しぶりに朝遅くてもいいし、来週からは文化祭の締め処理あるから忙しくなるし……。
それに、俊介がふさわしくないとか酷いこと言うから、俺が俊介以外じゃダメなところ見せておこうと思って。」

首に唇を寄せると、俊介は体を固くする。
下でちろちろと首筋を舐めると、おずおずと腕を伸ばして俺の背中に手をのばす俊介を見て、劣情が募る。

何で、素直になってくれないのか、そんな考えはすがってきた俊介の様子に全部頭から消えて、ただただ、彼を貪りたい気持ちでいっぱいになる。

ボタンを外したシャツの隙間からTシャツをまくり上げて、胸の突起に手をのばす。
最初はあまり感じた様子の無かったそこも、今では少し触れるだけで、喘ぎ声を漏らす位感じる様になっていた。

刺激で赤くなり始めた乳首をつねりながら、膝で昂り始めている中心を押すと、俊介の体がのけぞる。

体の中を駆け巡る快楽と熱を吐き出すみたいに、はあ、はあ、と息を吐き出す俊介を見て止まらなくなる。

俺自身大分疲れていて、酷い興奮状態で、無言で俊介のベルトのバックルを外してズボンも下着も脱がせて、すでに勃ち上がっているそこをみて妙な安心とそれから、それを超える興奮と、で訳が分からなくなりながら俊介の唇にようやくキスをした。

舌を絡めると必死に応えようと舌を伸ばしてくる俊介に愛おしさが募る。
唾液を飲ませるように送り込むと、口の端からこぼしながらも賢明にのみこもうとする。

唇を離した時にはもう、ぼんやりとした表情をしていて、それが逆に扇情的に見えた。

手を秘部に伸ばす。
自分で自分の息が荒くなっているのに気が付いて、苦笑しそうになる。

ベッドサイドからローションを出して塗り込めると、俊介の口から溜息の様な喘ぎ声がもれた。

「んぅっ、あ、やぁッ……。」

この、俊介の体を拓く瞬間がたまらなく好きだ。
グチグチという粘着質の音が室内に響く。
その音が恥ずかしい俊介は彼自身の腕で顔を隠している。

隠されると暴きたくなるのは雄としての本能だろうか。

充分解された秘部に切っ先をあてがう。
少しずつ埋めていくとすぎる快感にか、俊介の体が逃げをうって、上にずり上がる。
それを止める様に肩をおさえて、一気に怒張をうめる。

「ッひぁっ……!」

悲鳴にも似た声が俊介から上がる。
顔を隠していた手をベッドに縫い止めて、そのまま腰を打ち付ける。

もう、俊介の顔は快楽にドロドロに溶け始めていた。
恐らく自分も情欲に染まって酷い顔をしているだろうことは容易に想像がついた。

がつがつと音がしそうなくらい腰を打ち付けるとその度、俊介が喘ぐ。
彼の中が俺の動きに合わせて収縮しているのが分かって、がむしゃらに腰を振りたくる。

お互いに言葉も無くただひたすら行為に没頭して、そして真っ白に弾けた。

ほぼ、同時に俊介も達してお互いに、ゼイゼイという荒い呼吸で、それでも視線を合わせると俊介はふにゃりと笑った。
それから、どちらともなく唇を合わせる。

直後のけだるい気持ちのなか、それでも口内を舐め合う。
多幸感に近い感覚の中、絶対に俊介を手放さないと誓った。

お題:R18、小西先輩の嫉妬