あいうた2

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俺の家に来た樹はきょろきょろと部屋を見回している。
その姿もすごくかわいい。
写真撮っちゃだめだよな。

なぜだか、樹はいつにもまして自信がなさそうで、少し心配になった。
ニヤニヤ動画で、確固たる地位を築き始めている樹が歌うことに問題なんかあるはずもないし、そもそも最近俺の作る曲は基本的に樹のために作っているものばかりだ。
少し舌ったらずなその発音も人気の秘訣のようで、俺が個人でアップした動画にも「みゃーさん」タグがつく位だ。

「ミヤさんは禁断の恋をしているんですか?」

そう聞かれ一瞬答えに窮した。
今回、作った曲は禁断の恋をテーマにしている。
だが、俺は樹を好きだというこの気持ちが禁断のものだなんて、正直これっぽっちも思っちゃいない。

「そもそも絶対に好きになっちゃいけない人なんてこの世の中に居ないと俺は思っているよ。」
「だって、不倫とか駄目な事ってありますよね。」

まあ、相手のいる人を好きになると面倒くさいことになることはあるよな。
その点、樹はフリーだとこの前聞いて確定している。
まあ、ヘテロの人間に何の前触れもなく、好きだの愛してるだの伝えても引かれるだけの事は分かっている。
だから、今は言わないけど、いつかは樹にこの気持ちを伝えたい。

「それは付き合っちゃ駄目な人であって別に好きになるのは自由だろ?」

俺がそう答えると、樹はくしゃりと表情をゆがめた。
刹那、抱きしめたい衝動が走ったがこらえた。

気持ちを切り替えて機材の準備を始めたが意識はほぼ樹に集中していた。
普通はそれぞれの声がかぶりやすいので対面では録らないのだが、どうしても俺自身が樹を見ていたいのでしらばっくれて対面でマイクをセットした。

樹の歌は日に日にレベルアップしているが、今回はいつにも増していい。
思わず鳥肌が立ったほどだ。

サビの部分になって視線がからむ。
その瞳の色っぽさと、歌声、歌詞の内容が頭に入ってきた瞬間、まるで誰かに愛をうたっているようなその姿にブツリと理性が切れる音を聞いた。
そもそも、歌詞は自分が考えたんだろうという事実は、その時はすっかり頭から抜け落ちていた。

目の前にいる樹の腕を引き寄せる。
突然の事で驚いた様子の樹は体制を崩したように俺の胸元に。
こすりつけた頭から香るシャンプーの香りにたまらなくなり、樹の顎をつかんで強引に俺の方を向かせた。

樹は固まってはいるがおびえた様子はない。
驚いて半開きになっている唇をむさぼった。

もっと、もっと樹を味わいたい。
その一心で舌を樹の口内にねじ込む。

樹の舌をなめあげるように自分自身の舌を絡め、樹からあふれる唾液を吸い取る。
樹の反応を少しも逃したくなくて、目を開けたまま反応を追うが、真っ赤になっている様は初々しくてたまらなくなる。

腰砕けのような状態になって樹はずるずると床に沈み込む。
怪我をしないように腰を支えてやりながら沈み込んだ樹に圧し掛かる。

もうこの位でやめておけと冷静な自分が警鐘を鳴らすが、ずっと手に入れたかった樹とキスをしているという事実に止めることができなかった。
弱々しく、腕を突っ張って拒否する姿も残念ながら俺を煽るだけだった。

再度噛みつくようにキスをして、上あごを舌でなめあげると、気持ちが良かったのかビクリと震えた。
その姿に、樹の全身を俺でめちゃめちゃにしてやりたいという欲求が高まる。

それこそ、口の中すべて触れたことのない場所が無いって位舐めまわして唾液を交換して。
口を離す時にはあふれ出た唾液がツーっと糸を引いて切れる。

樹をみると真っ赤な顔で呼吸が上手く出来なかったのであろう、はあはあと息が荒い。
それを見て、俺はなんて事をと一気に冷静になった。

とりあえず、樹を起こして座らせ、ヘッドホンを外して「悪い。」と言う。
俺は一体何を考えているんだ。
ショックで呆然自失の様子の樹に謝罪をする。

「本当に済まない。男にキスされるなんて気持ち悪かったよな。」

罵声が来るか、それとも樹のことだ、ひどいと泣くのか。俺が樹の次の言動を待っていると

「へ?」

とその場に似合わない間抜けな声が聞こえた。

「俺の事からかったんじゃないんですか?」

見当違いな問いに驚く。
からかうなんてそんなことするはずがない。

「からかったんじゃないよ。樹があんまりにもかわいくて……。いや、違うな、俺が樹のことが好きでたまらないから理性が振り切れてしまった。怖がらせるつもりはなかったんだ。」

こちらの方が大人なのに簡単に理性飛ばして暴挙に出て、挙句の果てに告白だ。
自己嫌悪に陥りかけたその時、樹の様子に気がつく。
じわじわと全身を赤く染め上げる樹に、まさかという気持ちが芽生える。

それを裏付けるように樹は言った。

「ミヤさんも、ゲイなんですか?」
「まあ、そういうことになるね。『も』って聞くって事は樹もこちら側なんだね。」

その時にはすでに、まさかがもしかしてに変わっていた。
ああ、愛おしい。
樹が愛おしくてたまらない。

樹は真っ赤になりながら恥ずかしそうに

「お、俺も、ミヤさんのこと好きです。」

と言ってくれた。

ほんと、たまんねーな。
心の声は口に出ていたらしく、さらに赤くなった樹は俺にすがりついてきた。
かわいくてかわいくて今すぐめちゃくちゃにしてやりたい。

ファーストキスだったと爆弾を落とした樹に、かなり申し訳ない気持ちになる。
変なトラウマになってないといいと思いながらキスして良いかと聞くと静かに樹は瞼を閉じた。
その反応もかわいすぎて「好きだよ。」と呟きながらキスを落とした。