君と愛を歌おう7

眩いライトと凄まじい歓声。
緊張とか上手く歌おうという体面とかそんなもんが一気にどうでも良くなった。

曲が流れ初めて声を出す。
今まで、歌うと言う事は曲を作るという事の単なる付属品に過ぎなかったのだが、ああ、楽しいなこれ。うん、楽しい。

もっと、声を張り上げる様な曲にすれば良かった。
自分一人で曲を選べるような立場に無いので仕方がないのだが、残念だ。

あっという間に曲が終わってしまった。
MCでは、事前にアンケートを取っていた言って欲しいセリフのを喋ったりした。
結構きわどい物も多かったが盛り上がっていた。
ネット上のゲイ疑惑で微妙な雰囲気になるかと思ったが女性ファンが多いとはいえアイドルとは違うので問題ない様だ。
明らかにホモっぽいセリフを言っても盛り上がっていたので、女性にはそう言った雰囲気が好きな人も多いのかも知れない。
今度腐向けタグの付く様な作品を考えてもいいのかも知れない。

そんな事が頭をよぎった。

終始笑顔は上手く作れたと思う。
袖に引っ込んで、樹との歌の準備になる。

「ミヤさん!!お疲れ様です!!」

樹が俺を見つけて駆け寄る。

「ヴィーもお疲れ様。」

それから後一曲、頑張ろう。俺がそう言うと樹はニコリと笑った。
多分俺も、樹もテンションが上がりまくっていて上機嫌通り越してもはや興奮状態なのだろう。

知名度の関係でアニメの曲をオファーされると思っていたが、ニヤニヤのイベントということで俺と樹が付き合うきっかけになったあの曲をこれから歌う事になっている。

直ぐに次の出番はきた。
二人で顔を見合わせて笑い合う。

まるで秘密基地に居る小学生の様にクスクスと二人で笑いながら再度舞台へと向かった。
こんなくすぐったい様な雰囲気で歌う曲では無いのかも知れない。
作った時は、まだ樹と付き合う前でそんな幸せ全開の曲は作れなかったのだ。

今回のライブに合わせてアレンジはかなり入れた。
初お披露目に近い状態なので反応が楽しみである。

一旦証明が落ちる、ざわざわとする客席を気にしつつもスタンバイをする。
曲が始まる。

二人の上にスポットライトの様に証明が当たると同時に歌い出す。
コーラス部分を増やしに増やしてほぼずっとどちらかが歌っている様な状況だ。
中盤以降は二人とも歌いっぱなし。
樹が初めて合わせてみた日、「鬼ですか?圭吾さん……。」と言ったのは記憶に新しい。

とにかく今は樹と楽しみたかった。
俺の低音と樹のコーラスが交じり合う。

セックスとはまた違う快感に酔いしれる。
それがだんだん、だんだん樹のパートに切り替わっていく。

禁断の歌。歌詞はほぼ、いじっていない。コーラスパートに若干の歌詞を付けた位だ。
だが、一人と一人が禁じられた恋に悩み苦しんでいた歌が、今は二人で立ち向かっていく歌になっている。

そっと樹に視線を送ると樹もこちらをチラリと見た。
精一杯、樹にそれから客席の観客にこの声が、この歌が届く様に歌う。

俺の歌声と、樹の歌声が混ざって、混ざって共鳴し合って会場を包み込むようになって響きわたった。

曲が終わる。
俺も樹も息があがって肩で息をしていた。

最高の気分だった。

ふわふわしていてその後の事は正直覚えていない。
司会進行役が何かを話しかけていた気がするし、何かを答えていた気もするが良くわからない。
後日、樹にきいたら樹もだと言っていたので二人してふわふわと余韻に浸っていたと言う事だろう。

我に帰った時にはもう、ライブはフィナーレで出演者全員で歌を歌っていた。
良く練習をしておいて本当に良かった。

心地よい疲労感に包まれながら、お疲れ様と言い合って打ち上げへと向かった。
相変わらず、どこかふわふわとしている感じだった。

色々な人と話して、名刺を交換したり、メルアドを教え合ったり、コラボの約束を取り付けたり、すごく充実していたし同じ事を生きがいにしている人間との話しは楽しかった。
だけど、それでも樹の声が、俺だけに投げかけられる彼の声が聞きたくてたまらなかった。

打ち上げが終わって樹と帰路に着いた。
別々に帰った方が良かったのかも知れない。

だけど一刻も早く二人っきりになりたかったので、家が近所だからと言い訳して二人でタクシーに乗り込んだ。

運転手に行き先を告げ、ふう、と一息。
樹も少しぼーっとしている様だった。

ほどなくして自宅に着いた。

引きずる様に樹を連れて、玄関のドアを開けて二人で入る。
賃貸の三和土(たたき)は総じて、狭い。そこに男が二人という状況は狭すぎるが気にしている余裕は少なくとも俺には無かった。

まだ、ぼーっとした様子の樹の顎を引くとその唇に自分のそれを寄せた。
そのまま舌を差し込んで樹の口内を味わう。

二人ともアルコールの匂いがする。

舌の裏側、上顎、樹が感じるところを重点的に舐め上げた。
腰が抜けた様にカクリと座り込みそうになる樹を抱きかかえる。

「圭吾さん、好き。好き。」

うわ言のように言う樹に笑みを深める。
多分、今俺も樹も少しおかしい。

お互いその事実は分かっているが、熱を持て余した様になっている。
もどかしい気持ちで自分の靴を脱いで樹の靴を脱がして寝室へ直行した。

汗臭い?そんなもん知るか。

朝、目を覚ますと樹は横でまだ寝ていた。
俺はフリーランスで仕事の調整は済んでいるし、樹は元々休む予定だった。

シャワーを浴びる暇も惜しんでセックスするとかお前いくつだよと自分に突っ込みを入れたい。
まあ、昨日はライブの余韻で凄まじく興奮していたので仕方が無かったと思いたい。

軽く後処理をしたまま、二人で寝てしまった。
樹の体が少し心配だ。

そんな事を想いながら見つめていると、樹の目がぱちりとあいた。

「おはよう。」
「け……圭吾さんおはようございます。」

樹の声はかすれていた。
昨日ライブだった上に夜に酷使させてしまった。

悪いと思うがその事実が少し嬉しい。

「とりあえず、シャワー浴びて朝ごはんにしようか。」
「はい。」

二人で笑いあった。