愛を叫ぶ1

恐らく絶好調というのはこういう事を言うんだろう。
勤めている会社で半年前に発売したゲームがヒットした。
俺自身が手掛けた音楽は中毒性があるというのがネットでの評価だ。
リリース前の修羅場の時は恋人である樹にほとんど会えず、すれ違いの日々だったが樹はいやな顔一つせず、疲れきっている俺に差し入れを持ってきてくれたり献身的だった。

仕事が落ち着いた今は、二人でデートをする時間もあるし、趣味であるニヤニヤ動画での楽曲公開も定期的に行えているし、公私ともに充実している。

だから、気が緩んでいた、そう取られても仕方がないのかも知れない。

「宮本さんて、見た目は普通なのに妙にモテますよね。」

同僚の女性社員に言われそちらを見る。
その表情は面白いとでも言わんばかりのものだ。
一部のゲイは女性にガツガツせず、かつ気配りがきくのでモテるそうだ。
恐らく俺もその一人だが、女性にモテたところでまったくもってどうしようも無い。

しかしながら、わざわざゲイであることを公表しても波風しか立たない事は知っているので、曖昧に笑ってごまかす。
そもそも、見た目は普通なのにって暗に俺の事を馬鹿にしてないか?

イライラとは少し違うのかもしれないが何かもやもやしたものが胃のあたりからせりあがってくる。
ただ、それを目の前の女性に出せるほど子供でもないので、曖昧に笑ってごまかす。

我慢できなくなっているのだろうか。
言えるものであれば樹の事を世界中に自慢して歩きたい。

ここ一週間ほど樹が期末試験に向けての勉強のため会えていない所為だろうか、無性に今、樹に癒して欲しい。
そんな事を考えていると

「宮本君ちょっと。」

と社長に呼ばれた。

社長と共に、応接室も兼ねている会議室向かった。
そこで言われた内容に俺は愕然とした。

社長の話はこうだった。
半年前に発売したうちのゲームがアニメ化される事になった。
これ自体は非常に喜ばしい事であるし、俺自身も当然嬉しい。
にもかかわらず社長の表情は硬い。
何か問題でもあったのかとこちらから訊ねると、渋い表情のまま社長は口を開いた。

「アニメ化に当たってプロデューサーさんが、テーマソングは全く別の物にしたいと言ってきていてな。」

ゲーム内で使われている音楽はどれもゲームユーザーに受け入れられていたはずだ、評価だって決して悪くない。
社長は全くという部分の語気を強めた。
ああ、そう言うことか。

「僕の作った曲をアニメからは排除という事ですか?」
「ああ、そういうことらしい。詳しくは来週、製作会社の方達との打ち合わせで説明があるらしい。」

まあ、気を落とすな社長はそう言って会議室を出て行った。
俺は暫くその場から動く事が出来なかった。

会社ではその後社長から社員全員にアニメ化が決定した旨の報告があり社内はお祭り騒ぎだったが、一緒に騒ぐ気にはどうしてもなれず、早々に帰途についた。