一方、小鳥遊との関係はと言うと、どん引きされたかと思ったが、いままで通りだった。むしろ、向こうから話しかけてくることが増えたような気がする。
たぶん、いままでがどん底の好感度でそれ以上落ちようが無かったというだけというのが答えだろう。
今も、ふろ上がりの一杯(勿論ジュースだ)を共有スペースであるリビングのソファーで飲んでいたところ、隣に座ってきた。
ソファーはテレビに向かって置いてある1つしかないので、座りたければ一緒に座るしかないのだけれど、今までこんなことは無かったと思う。
この前、泣き喚いた時の事を思い出して、じーっと小鳥遊をみてしまう。
「…どうした?」
俺の視線に気がついたようで、こちらをみながら聞かれる。
何、見つめてるんだ俺、赤くなりそうになる顔に焦りつつ立ち上がる。
「小鳥遊も何か飲む?」
自分の持っているオレンジジュースを振りながら訊ねる。
小鳥遊は「いや、いい。」と断りながら、ソファーのすぐ隣をポンポンと叩いて、そこに座れと目配せをする。
え!?なぜ?今端と端にすわってましたよね。何ですぐ隣を指定されるのか?
若干…いや、かなり挙動不審になりつつも小鳥遊の隣に座った。
すると、俺の首に巻いていたタオルをするっと引き抜かれて、頭を拭かれた。
「水滴、落ちてるぞ。」
そう言われながら、頭を拭かれる。
だらしがないと思われたって事だろうか。小鳥遊は中途半端とかだらしないとかそういう言葉とは無縁そうだ。
「だ、大丈夫だよ。自分でやるよー。」
と言ってタオルを取り返そうとするが、「俺がやるから。」と言われ、相変わらずされるがままだ。
時たまうなじに触れる腕や、タオル越しとはいえ頭に触れる手に、ドキドキする。
沸騰しそうになる体に、自分は犬、飼い主にごしごしされているだけの犬だ、と言い聞かせる。
ある程度乾いたところで小鳥遊は満足したのかタオルを頭から外して、手櫛で俺の髪の毛を整え始めた。
そろそろ、俺の精神的に非常に色々やばいので。
「ありがとー。」
と言って離れた。
これはいったいどういうことだろう。
単に小鳥遊のお兄さん気質的なところが出ただけだろうか?
(たしか、部活でも後輩たちのお兄さん的存在と聞いたことがある。)
共有スペースでは何とかポーカーフェイスを保ったけど、自室に入った瞬間、全身が沸騰して真っ赤になってしまった。
そろり、彼が整えてくれた髪の毛に触れる。
そこにまだ小鳥遊の手があるような気がして、胸が切なくなった。