笑顔を作ることに失敗した俺がうなだれていると。
「おい。」
小鳥遊に声をかけられた。
ふと、顔を上げると、マグカップが差し出された。
「コーヒーでいいか?」
と聞かれ、頷いて受け取る。
「迷惑かけちゃったねぇ。ありがとー。」
とりあえず、迎えに来てくれたこととコーヒーのお礼を言うけど、やばい、今の俺本当にやばいから優しくするな。
もう、色々堪えられそうにないので、マグカップをもって自室に引っ込もうとするが、小鳥遊に待てと言われてしまいソファーに座り直す。
俺が一番端に座っているので、反対側の端に小鳥遊も座った。
「…好きだったのか?」
暫く沈黙が続いた後、小鳥遊が口を開く。
何のことだ?何が、いや誰の事だ?もしかして俺の小鳥遊が好きだって気持ちがばれているのか?
やばい、と思いながらもヘラヘラ口調で聞き返す。
「何のことー?」
「だから、図書委員の1年の事好きだったんじゃないのか?」
ばれたかと思ったけど、違ったみたいだ。ほっとしたけど、図書委員の1年ってツバサちゃんのことかな。
ああ、さっき拓斗と言い合いした上に、あの言い訳、それに明らかに変な表情をしているであろう俺をみてそう思ったのか。
「えー、違うよー。拓斗とツバサちゃんは相思相愛のラブラブじゃーん。」
軽い調子で、事実を言う。
だけど、その相思相愛の状況の邪魔をしていたのが、まぎれもない俺自身だという事実にぎりぎりと胃が痛むような罪悪感が増す。
「は?相手が誰が好きかって事と、自分が誰が好きかって事は無関係だろ?っつーか、違うならその表情の理由は何だ?」
あまりにもナチュラルに、俺がツバサちゃんに横恋慕している事を肯定される。
その言葉に少し、心臓がチクンとしたけど、まあ、相手の気持ちに関係なく好きになっちゃう事ってあるよな。
例えば俺が目の前の小鳥遊が好きなことのように。
表情の理由か…。
この目の前の大して中のいい訳でもない同室者、そう周りも恐らく本人も思っているような間柄の人間に話してしまっていいのだろうか…?
まあ、小鳥遊は真面目そうなタイプだし、言ったところで言いふらすような事はしないだろう。
それは毎日ストーカーよろしく、目で追っていた俺には分かっているんだけど。
だってさ、好きな人が話せって言ってるんだよ。(実際は俺の変な表情の理由が知りたいだけなのはわかっているんだけど。)
ああ、心の中身全部ぶちまけてしまいたいって思うのはおかしいかなあ。
そんなわけで、俺は小鳥遊に話を聞いてもらうという誘惑に思いっきり乗ってしまった。