担がれたままIN寮の自室です。
どうしてこうなった的な状況に何が何やら状態で困っていると、リビングのソファーに下ろされる。
靴を履いたままなので仕方がないので一応脱いで、足元に置いておいた。想定外すぎて現実逃避をするしかない。
俺がソファーに座ると、小鳥遊が横に座る。
とにかく本題に入ってほしくなくて、気になっていた事を聞く。
「マジでどっちが島田優斗だか分かってるの?」
そう聞くと、事もなげに「ああ。」と答えられる。野生の勘か何かなのか、偶然なのか、一応優斗と言って俺を連れ帰ってきたので当たってはいる。
「純粋に見た目をとってもかなり違うだろう。体つきもお前より島田拓斗の方がしっかりしている。恐らくだが、筋トレか何かを向こうはしているんじゃないのか?」
小鳥遊に言われ自分の腕とかを眺めてしまう。
弟が筋トレ?まあ、してそうっちゃあしてそうだ。
というか、俺の体弟に比べてそんなに貧相だろうか…。
男として地味にショックを受ける。
体系の違いだったとしても、小鳥遊が拓斗と俺を見分けているという事実に、かなり浮かれている自分が居る。
だって、見分けられるってことは俺の事、ちゃんと見ているってことだ。
まあ、それが好意的かどうかは分からないけど。(と言うか今までの事を考えるとどちらかと言うと、敵意の方なのかもしれない。)
こんなことで浮かれているのに、これから聞かされるであろう断罪の言葉に俺は堪えられるんだろうか…。
つい、手にも力がこもってしまい、ギュッとこぶしを握る形になる。
「そう言えば、もう授業始まるよ。小鳥遊学校行かなくて大丈夫?」
最後のあがきとばかりに言うが「もう、俺も島田も休むって伝えてある。」とまさかの欠席宣言をされてしまいあえなく撃沈する。
というか、真面目な小鳥遊が欠席するなんて、そんなに俺の事を怒っているということだろうか?
ああ、そんなに嫌われてしまったのか俯いて涙が出るのを堪える。
小鳥遊がまたため息をついて、それにもビクついてしまう。
「…先に言っておくが、昨日の件は、島田の同意のない上だったと知っているからな。」
小鳥遊に切り出され、俺はその言葉の意味が脳に入ってきたけど、思っていた言葉と違って正に鳩が豆鉄砲を食らった様なぽかーんとした表情になってしまった。
「は!?」と驚きで声が漏れてしまった。
小鳥遊はあきれたというか同情するような表情で
「お前はかなり混乱していたから分かっていなかったようだが、島田、お前俺が理科室に入る前吐いただろう。理科室に入った瞬間、独特の臭いがしていたのですぐ気付いたし、そもそも、お前の上に乗っていた奴の目が異常に座っていたからおかしい事は一目瞭然だったぞ。」
と説明してくれた。
と言うことは、小鳥遊は分かってくれているということで、たぶん俺の事、さらに軽蔑とかはしていないって事で…。
安心したら、ポロポロと涙があふれてきてしまった。
小鳥遊はそんな俺を見て、涙を袖口でぬぐってくれた。
「ああ、やっぱり昨日の事トラウマっぽくなっているようだな。…あいつは俺と島田拓斗とできっちり『話合い』をして絶対にお前と島田拓斗の周りに手を出さないと誓わせたから大丈夫だ。」
三井君の事は物凄い嫌悪感もあったし、殴られて痛かったし、やばそうな雰囲気で二度と近寄りたくないし近寄ってほしくないけど、今俺が泣いているのは、小鳥遊に勘違いされてなかった安堵からだ。
でも、それを言うと好きって言っているのと一緒な気がするので何も言えない。
弟の名前も出てきて、ああ、三井君の今の本命は弟だったかと思い出す。あのやばい感じは下手するとツバサちゃんにも危害を加えかねない感じだったもんなあ。『話合い』と小鳥遊は言っていたけど、弟が関わっているということは恐らく、『話合い』という言葉で片付けられないレベルの色々で本気でもう関わらないと誓わされたんだろう。うん、我が弟ながら少し怖い。
でも、小鳥遊は本当に無関係なのに、その場に居合わせちゃったというだけで、わざわざ一緒にそんな事してくれたんだ。
本当に、本当に小鳥遊は優しいなあ。
小鳥遊の顔を見ると
「ありがとう。」
するりと言葉が出てきた。
顔は涙でぐちゃぐちゃでたぶんひどい事になっていてこんな汚い顔で申し訳ないなと思ってしまう。
すると、小鳥遊は困ったような顔をして俺の涙を拭いている手を一旦離すと、そのまま俺を抱きしめた。