真っ直ぐに見つめる18

校舎に着く前に、後ろから声をかけられる。
振り向くと弟とツバサちゃんだった。
今日も仲良く登校なんだ。二人には全く関係のない話なんだけれども、正直今の精神状態で恋人同士の甘い雰囲気を見せつけられるのはかなりきつい。

「あ、あの、優斗先輩その格好…。」

おずおずと言う感じでツバサちゃんが聞いてくる。
ん?と思って自分の格好を確認する。
ああ、そうか、今日はやる気が起きなくて普通の格好になっているんだった。
そんなことも分からなくなっているとか…。自分自身に苦笑してしまう。

「ちょっとやる気おきなくてねー。」

なんか、いい訳するのもめんどくさくなって正直に言う。
拓斗が眉をひそめる。いや、お前の真似をした訳じゃないからね。
そもそも、拓斗の髪は洗いざらしではなく、あえてあの形にセットしていたはずだし…。

「昨日、小鳥遊と話をしなかったのか?」

ぎょっとして弟の顔を凝視してしまう。
何故、ここで小鳥遊の名前が出てくるんだ?
格好が被ったことへのいやがらせか?
俺がぐるぐると考えていると、登校してくるクラスメート等が次々に声をかけてくる。

「何、どっちが優斗だよ。今度は何の遊びー?」
「ドッペルゲンガーごっごか?ほどほどになー?」

等、皆興味津津と言う感じで話しかけられ、うんざりする。
そんなに似ているか?ああ、今日はヘラヘラ笑う気分にならないので、比較的無表情と言うのもあるのかな?
ああ、こりゃあ拓斗も怒るかとため息をついていると「別に俺は何とも思っていない。」と拓斗に言われる。じゃあ、何故そんな訝しむような顔でこっちを見てるんだよ。
まあ、もう登校してしまったし、少なくとも今日はこのままでいるしかないので仕様が無い。

教室へ行こうと歩を進めると不意に

「おい。」

と声を掛けられた。
3人で声のした方を向く。
そこには、小鳥遊が居た。

なんだ?と思ったけれど、もしかして、拓斗の方に用事かと思いなおす。
俺に対する用事なんてある訳がない。(わざわざ、俺に対してマイナス感情があるというのを学校で話をする必要性何て皆無だし。)

「島田…って2人とも島田か、島田優斗ちょっと来いよ。」

そう言って俺の手を取る。
え!?用って俺に?まさか昨日の件でわざわざ?
いやだ、まだ、あんな目で見られたくない。
俺はとっさに

「待てよ、俺、拓斗の方なんだけど。」

と拓斗のフリをしてしまった。
間違えたって勘違いしてくれたのか、はあ、とため息をつく小鳥遊。

「何馬鹿な事言ってるんだ?お前は優斗の方だろうが。」

別にツバサちゃんとの距離は俺も拓斗も同じくらいだったし、拓斗とツバサちゃんは手を繋いでいた訳でもない。
普段、恰好も喋り方も違うから大体の人間はどっちがどっちだか判別が付いているけど、今日みたいに恰好も似ていて喋り方を拓斗に合わせてしまえば、はっきりいってどっちがどっちだか相当親しい人間でもない限り分からないはずだ。

頭が真っ白になってしまい、手をひかれていたけど、足が止まってしまう。
だって、どこへ行くかは知らないけど、話ってどうせ、セフレと気持ち悪いことしてんじゃねーよって事を言われるってことでしょ。

「だから、俺は優斗じゃない。」

もう一度そう言うけど、イラついたように

「めんどくせーな。」

と言われ、そのまま、担がれた。
宙に浮いた体にびっくりしていると「とりあえず部屋戻るぞ。」とそのまま米俵を担ぐように肩に担がれたまま、今来た道を逆戻りすることになってしまった。