三井君は一瞬体を強張らせたが、笑いを止めた後、ニヤリと笑った。
「これは、お願いではなく、決定事項ですよ。…拓斗君は運命だからぁ、気絶させるだけにぃ、したけどぉ、あんたはいいや。」
大股で俺の所まで近づいてきて「実は僕、武道のたしなみがあるんです。」そう言いながらみぞおちの辺りを殴られた。
「がっ、…がはっ」
ごほごほとせき込みながらうずくまる。
胃液がせり上がってきて、吐きだす。生理的な涙がボロボロとこぼれている。
「きたないなぁ」と言いながら、肩をグイッと持ち上げてそのまま放り投げるように押し倒される。
そのまま、三井君は俺に馬乗りになる。マウントポジションを取られて、殴られた腹も痛くて、何とか逃げようと暴れるが上に居る男を退かす事ができない。
三井君は彼自身のブレザーを脱ぐと、中に着ているYシャツのボタンを一つずつ外していく。
彼のやっている事の意味が分からず、茫然としているとYシャツをはだけさせた上にインナーとして着ているTシャツをずり上げ、そのまま抱きついてきた。
嫌悪感から押し返そうとするが、びくともしない。
その時だ、ガララと理科室の扉が開いた。
床に転がっていた俺が仰ぐように見た先に居たのは小鳥遊だった。
俺が助けてと小鳥遊に言おうとした瞬間それを遮るように
「あーん、見つかっちゃいましたね。だから部屋でシようって言ったじゃないですか。」
腰をくねらせるように俺になすりつけながら言われ、頭が真っ白になる。
念押しのように顔を耳元に近づけられ「ねぇ、優斗君」と小鳥遊にも聞こえるように言われる。
ああ、そうか俺ははめられたのか…。
小鳥遊はといえば、驚いたように目を見開いてこちらを見ている。
あの時と一緒だ。「気持ち悪い」と言われたあの時と。
また、俺は嫌悪の目で小鳥遊に見られるのか。
また、軽蔑に値するって言われちゃうかなあ。
たぶんこの状況と今までの行いから何を言っても無駄なんだろう。
ショックでのどの奥がキューっと音を立てる。
俺はたぶん青白くなっている顔で「あ」とか「う」とか言葉にならない事を言うだけで。きっとこの顔面蒼白っぷりも、ご乱行振りを見られてしまい焦っているようにしか見えないんだろう。
いやだ、小鳥遊にまた、何か言われてしまったら、たぶん俺はもう生きていけない。
小刻みに震える指先もお構いなしに、暴れると今度は思いの外簡単にどかせる事が出来た。
そのまま、小鳥遊の事を見ることも無く走って俺は逃げ出した。