満ちて2

約束の土曜日。僕は拓斗先輩の部屋のインターフォンを押した。
すぐに拓斗先輩は出てきてくれた。
いつみても拓斗先輩は恰好良い。
付き合いだしてすぐの頃は優斗先輩に似たどちらかというとカジュアルな服を着ていることが多かったけれど半年たった今はカジュアルではあるんだけれど落ち着いた雰囲気の服装をしていることが多い。
拓斗先輩が本当に好きなのは今の様な服装なのだと思う。

ちんちくりんな僕はいよいよ釣り合わないと同時に思うけど。

二人で過ごすといっても昨日一緒に図書館で借りてきた本を読んで過ごす。
拓斗先輩の気配を感じながら過ごすのはくすぐったい気持ちに今でもなる。

だけど、二人きりの空間はとても心地よくて過ごしやすい。
拓斗先輩も同じだといいな。

「拓斗先輩はつまらなくないですか?」

僕が聞くと本から拓斗先輩は本から顔を上げた。

「ツバサはどこかに出掛けたかったか?」
「いえ、そういう訳じゃなくて!僕は落ち着けていいんだけど拓斗先輩はつまらないんじゃないかと思って。」
「二人きりで過ごせた方が俺は嬉しいから。」

元々そんなに離れていない場所に座っていた拓斗先輩は僕の真横に来るとそっとキスをした。
でも、唇はすぐに離れていってしまって、思わず彼の服をギュッと握る。

驚いた顔でこちらを見つめる拓斗先輩に恥ずかしくなる。
けれど決めたんだ。今日もっと触れ合いたいって言うって。

「もっと、してください。
僕、先輩にもっと触りたい。」

恥ずかしくて目をギュッとつむって早口に言う。
それから、恐る恐る目を開けると辛そうに顔をゆがめた拓斗先輩がいた。

「やっぱり、僕とそういうことするのは嫌ですか?」

泣きそうになりながら聞くと、すぐに「違う」と否定された。
それからギュッと抱きしめられる。
びっくりしてギクリと固まる。
ドキドキと心臓がなって拓斗先輩にまで音が聞こえてしまいそうだった。

「ほら。」

と拓斗先輩は言った。

「ツバサは無理をすること無いんだ。酷い事をしたのは俺なんだから。」

何を言っているのか分からなかった。

「無理なんかしてません!」
「だって、体ガチガチに固くなってるだろう。」

それを聞いてはっとした。
拓斗先輩が言っているのは恐らく付き合う前に襲われた時の話だろう。
勿論僕もショックで、あの時は嫌で、怖くてたまらなかった。
今も思いだせばつらい気持ちになる。

だけど、それよりもこの半年間でもらった愛情の方が大きかった。
もう大丈夫なのだ。
だから、拓斗先輩があの時の事をどう考えていたかなんて考えもしなかった。

それに僕が本当に辛かったのは……。

「拓斗先輩、違います。」

自分の声は思ったよりも静かだった。

「もう、あの時の事はつらくは無いです。
拓斗先輩が一緒に居てくれるから。僕を好きだって言ってくれるから。
体が硬くなっちゃうのは緊張してるからです。恥ずかしがっていてごめんなさい。
嫌だなんて思ったこと無いですよ。」

拓斗先輩の腕の中に納まりながら伝える。

「それに……。それに僕が本当に辛かったのは最初に告白した時に『ありえねえだろ』って言われたことです。
御免なさい。こんなこと言っちゃいけないって分かってるのに。
好きなんです!拓斗先輩の事大好きなんです。
だから、僕のことを拒絶しないでください。」

気が付いたらボロボロと涙が溢れていた。
拓斗先輩の腕に力がこめられる。

「ゴメン。ごめんなツバサ。
意気地なしの俺だけどしてもいいか?」

ゴクリと唾を飲み込む。

「抱いてください。」

いつも以上にか細い声になってしまったけれど、その声はしっかりと拓斗先輩に届いたようだった。