※40万ヒットリクエスト企画
夜中、だったと思う。
柊様と二人で布団に入って普通に寝た。
柊様は熱くもなく冷たくもないので特に寝苦しいということもない。
最初はいつもと違う生き物が布団にいるということに緊張してよく眠れなかったが、今では柊様が来る前と同じように布団に入れば自然と眠くなった。
だから、大体気がつくと朝で、夜の間、柊様が寝ているのか何可をしているのかはよく知らなかった。
けれど、大体朝起きると俺の腹の辺りで丸くなっているので普通に夜は寝ているのだと思っていた。
まあ、丸くといっても俺がそう感じているだけでただそこに居るだけなのかも知れない。
とにかく普通に飼い猫のように布団で寝ているだけだと思っていたのだ。
その音は、聞いたことのない不思議な音色だった。
俺よりやや背丈が高いだろうか、ベージュ色をした髪の男が布団の横、窓際に胡坐をかいて座っていて、横笛らしきものを吹いていた。
初めてみる男のはずなのに、それなのにその人が誰だか分かった。
「ひいらぎ、様」
思わず出た彼の名前が耳に届いてしまったのだろう。
笛の音がぴたりとやんだ。
俺を見下ろす瞳は人間のようだったけれど瞳孔まで真っ黒で、ああやはり人ならざる者なのかと妙に納得する。
そして、笛の音がやんでしまったことを残念だと思った。
半分眠ったままの頭で布団から起き上がると、柊様はギクリと固まった。
そのまま視線を左右にさまよわせる感じは人間に近いと思った。
「それ、もう少し聞かせてもらえませんか?」
笛を指差して俺がそう言うと、しばらく逡巡した後もう一度笛に口をつけた。
返事も何もない柊様に、この姿でも話すことは無いのだなと知る。
柊様の吹くメロディは全く聞いたことの無いもので、今まで聞いたどの曲とも違っていた。
けれど、とても懐かしい気がした。
耳から入ってきた音は、俺の全身に広がるみたいでとても、とても切ない気分になる。
気がつけば曲は終わってしまったようで柊様がこちらをじっと見つめていた。
なんだろう、羞恥だろうか、少し違う気もするが恥ずかしいみたいな感情が全身に広がる。
柊様が人の形をしているからだろうか、よく分からない。
いつもみたいに、なんですかー。とか、おなかすきませんか?とか普通に話せそうな気がしなかった。
何を話せばいいのか、どういった顔でいればいいのか、何も分からなくなってしまってただ、うつむいてそれから一言だけ呟いた。
「また、聞かせて欲しいです。」
その声は馬鹿みたいに震えていて、子供だってことが分かる感じで、何故だか少し悔しかった。
少し顔を上げると、柊様がほんの少しだけ笑った。
それからひざを立てて一歩前に進むと、俺の頭をそっと撫でた。
撫でた気がした。
急激な眠気に耐えられず眠りに落ちてしまった俺が目覚めたのはいつもと同じ時間で、柊様はいつもどおりの姿で俺の腹のところで丸くなっていて、夢だったのかも知れないと思った。
「柊様、昨日……。」
話し始めたときに合った目の色は漆黒で、昨日の瞳と一緒で、それが現実だったのか夢だったのかはどうでも良くなった。
きっと現実だったのだろう、と思うことに決めて柊様に手を差し出した。
「おはようございます。
昨日はありがとうございました。」
それだけ言うと柊様ま目を細めてから、定位置になっている俺の肩付近まで来た。
肩の柊様の頭を夜とは逆に俺が撫でてから、ふわふわする頭で起き上がる。
頭の中ではまだ昨日の曲が静かな音で鳴り響いていて余韻が残っている気がした。
了
リクお題:二人の距離が縮まる話、甘め