※リクエスト企画
時系列的に二人とも在学中
「御免、今週末の出かける予定駄目になった。」
電話口で言われた言葉に、思わずため息を付きそうになる。
けれど、それはすんでのところで理性がストップをした。
「分かりました。」
寂しいですとか、じゃあ今すぐ会いたいですとか、そんな言葉は出てくるはずもなくそっけなく了承の意を伝える。
やや間があってから
「埋め合わせは必ずするから。」
と言われる。
そのときこそ、甘えてみようと心に決める。
でも、今あの人は多分それどころではないはずだ。
最後の文化祭はもう2週間後に迫っていて中心となる生徒会は忙殺されているはずだ。
文化祭実行委員のクラスメイトが、今年は新企画をやる関係でかなり当日までの予定がタイトだとこぼしていた。
だから週末の予定ははなから期待はしていなかった。
そもそも、ちょうどふたりでいたときにテレビのCMで流れていた映画に行きたいねと話していただけなのだ。
映画はこれが駄目でもまた違うものを見に行けばいい。
一人の自室でスマホを枕元に放りなげた。
◆
全校集会は、後夜祭の説明だった。
今まではミス&ミスターコンテストを行っていたが今年は1日目の夜にそれを移して後夜祭はダンスをするらしい。花火をあげたりほか色々企画も考えていると以前の集会で説明を受けた。
今日は、ダンスの詳細な説明があるという話だった。
壇上で説明を始める小西先輩をみて、それから辺りを見回すと小西先輩をうっとりと見つめる人間がぽつぽつといる。
わざわざそんなことを確認してしまう自分にうんざりとする。
そして、きっと自分も同じ表情をしているときがあるということを自覚もしていた。
一人ため息をついて、もうサボってしまおうかと思う。
内容は後でクラスメイトに頭を下げて聞こう。
体育館を後にしようとすると、もう一人後ろの扉から出ようとしている人影があった。
五十嵐君だった。
五十嵐君は軽く会釈をするとそのまま無言で扉を開けて外へでる。
俺もその後に続いた。
「あれだけ人がいると具合悪くなりますよね。」
困ったように笑う五十嵐君の顔色はやや悪い。
彼の体質を考えるとたくさんの人ごみは酷だろうと思う。
「中庭でも行こうか。」
そもそも、風邪とかではないのだから保健室にいっても意味がないだろう。
提案すると、五十嵐君は「そうします。」と力なく笑う。
秋が差し掛かった中庭はだいぶ花の盛りが過ぎてしまったが、良く手入れされていて居心地がいい。
ベンチに五十嵐君を座らせるとその横に座った。
穏やかな風が吹いてしばらく二人で無言で過ごす。
「大地先輩の話聞かなくてよかったの?」
大きく息をはいてから五十嵐君に聞かれ、思わずぎくりと体を硬くする。
「別に……。」
話そうとした内容はすべて口の中に消えていき何も伝えられない。
何であの人は俺のことを選んだんだろう。
自問しようとして視線を下げたところでやめた。
小指から伸びる糸をみる。
あの人はこれがあるからじゃないと言っていたし、それを証明してくれた。
けれど、結局なぜ俺なのかは俺自身が一番良く分からないのだ。
一人で延々と考えていると、クスリと横で笑う音がした。
「本当に、大地先輩のことが好きなんですね。」
「俺にはそれしかないから。」
何もかもお見通しみたいに言われて答える。
自分でも気持ち悪いのだ。むしろ引いているというのが近いのかもしれない。
「なら、そう言ってあげればいいのに。」
言ってなんになるんだ。
今はまだいい。隔離された男だらけの環境で普通に恋人関係で過ごせている。
でも、それはあともう少しで終わってしまうのだ。
ずっと一緒になんて無理に決まっている。
「本当に、俊介さんは可愛いですよね。」
にっこり笑ってそれから、そっと顔に手を伸ばされた、筈だった。
その手は、俺の顔に触れることは無かった。
払いのける様にして五十嵐君の手をつかんでいたのはあの人で、思わず目を見開く。
「集会はどうしたんですか?」
「そんなのとっくに終わってるよ。」
心なしか苛立った様子のあの人がそっけなく答える。
困って五十嵐君を見ると、面白そうに笑っている。
「俊介さんは充分愛されてるよ。」
ニコニコと天使のような笑顔を浮かべて五十嵐君は言う。
「っていうか、大地先輩も俊介さんも何で俺との仲を疑うかなあ。」
思わずあの人の顔を見上げると、ばつが悪そうに視線を逸らした。
それから
「だって、俊介って可愛いじゃんか……。」
と呟いた。
何を言ってるんだこの人はと思う。どうしたらいいのか分からない。
「ああ、それは分かります。俊介さん可愛いですよね。」
返された言葉はもっと分からなかった。
「別に勘違いじゃないだろ。」
そういうとあの人は俺の手を引いて立ち上がらせると、そのまま俺を抱きしめた。
肩口に顔が触れる。
「これは俺のだから取るなよ。」
いつもの明るい話し方じゃなくて、時々出るぶっきらぼうな話し方だった。
彼が俺のことを必要としているということが分かって、どんな顔をしたらいいかわからず肩に顔をうめる。
「別に取りませんよ。」
ため息をつきながら五十嵐君に言われる。
「大地先輩は要領悪くないんだから生徒会の仕事だってそんなに抱え込まなくてもいいでしょうに、少しは俊介さんのために時間とったらどうですか?」
あんまり放っておくと俺本気で立候補しますよ。口角をきれいに笑顔の形に吊り上げたまま五十嵐君は付け加えた。
「疲れてかっこ悪いとこみせたくなかったんだよ。」
あの人は、そんなことを言う。
「俊介も、簡単に誰かに触らせてるんじゃねーよ。」
その言葉が弱音みたいに感じて、思わず素直に「ごめんなさい。」と伝えた。
「じゃあ、俺行きますね。」
具合もだいぶよくなったしと五十嵐君は立ち上がる。
足音が遠ざかったところでようやく一回深呼吸をする。
あの人の匂いがした。
「寂しかったです。」
それ以外何も言葉は浮かんでこなくて、馬鹿みたいに一言それだけ言うと「俺も」と返された。
「今日から文化祭まで、俺の部屋で寝泊りしてよ。限界だから。」
その言葉に少しだけ泣きそうになったけれど、我慢した。
了
リクお題:切甘、小西先輩の嫉妬