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案内されたお店は、おれと航平さんが初めて出会ったあのバーだった。

涙でぬれてボロボロの顔が今更ながらに恥ずかしくなって、袖で乱暴に目の周りを拭いた。

「一体、なぜ泣いていたんだ?」

航平さんは優しい。
優しいけれど、残酷だ。

ここで、おれが子供だという告白をしろというのか。

「ごめんなさい。ごめんなさい。嫌いにならないで、ください。」

縋りつく様に航平さんに言う。
奥に行っていた、あの綺麗な人が戻ってきた気配がした。

「今日、湊の誘いを断ったのが嫌だったのか、それなら……。」

首をめちゃくちゃに振った。

「恋人同士の痴話喧嘩なら、家に帰ってからやってよね。」

何も答えられなかったおれに、綺麗な人は言った。

恋人同士?痴話喧嘩?この人は何を言っているのだろう。
思わず涙がひっこんで、その人のことを見てしまった。

「ちょっと、この子が恋人の湊君なのよね?」
「ああ。」

肯定する航平さんに驚きが隠せない。
この人に、おれが恋人だと話をしてくれていたのだろうか。

「でも、どう見てもこの子、アンタと恋人同士だと思って無いみたいだけど。」

怪訝そうに航平さんがおれをみる。
恋人同士だったと航平さんも思っていてくれたの?

「付き合わないかと俺は聞いたよな?」

頷いてから

「……睦言じゃなかったんですか?」

そう、航平さんに聞いた。

「ちょっ、ちょっと待ってよ。頭痛くなってきたわ。
普通付き合ってるかどうかなんて、デートに行ったり、好きって言われたりするんだからわかるでしょ?」

おれに、言い聞かせる様に言った言葉に返事をすることはできなかった。
すると、綺麗な人はその綺麗な顔をゆがめて航平さんを見た。

「おい、どういう事だ。」

先程よりも1オクターブ以上、低い声で航平さんに詰め寄る。

「察しのいい自分がいやんなるな。お前、セフレ扱いしてきた恋人が、別の男と一緒に居るところに鉢合わせたんじゃねーか。
完全に俺、悪役じゃねーか。」

それから、おれの方を向いて頭を深々と下げた。

「嫌なこと沢山聞いちゃって、ごめんね。
ちなみに、アタシとこいつは単なる友人だから。まあ、今猛烈に友人やめてしまいたいけどね。」

何て答えたらいいか分からず、首を横に振っただけにとどめた。

「この際、言いたいこと言っちゃいなさいよ!
大丈夫、扱いは酷かったかもしれないけど、こいつ湊君にべた惚れだから。」

そんな筈無いとおもいながら航平さんの顔をもう一度見ると、顔をゆがめていた。

「航平さん、おれあなたに好きって伝えていいんですか?」

一旦止まったと思った涙がまたブワリとこぼれ落ちた。
航平さんが、おれのことをぎゅうっと強く抱きしめる。

「好きだ、初めて見た時から好きだった。愛してるんだ。信じてもらえないかもしれないが、世界で一番湊のことが大切だ。
仕事が忙しくても、きっと湊は理解してくれている。そう思っていたんだ。」
「一緒に、居てくれるだけで、その時間だけは、おれだけの航平さんだって思っていました。
……でも、だけど、おれ航平さんがどんなお仕事をされているのか知りません。
貴方のことが知りたいんです。俺が子供だから理解できないかもしれないけど話してほしいんです。」

盛大な舌打ちが聞こえた。

「お前らちゃんと一回、きちんと話をしろ。
そういう訳だから、とっとと二人で帰れ!!」

綺麗な人が乱暴に言う。

「用事はいいのか?」
「これ以上悪役になるつもりはないに決まってるだろう。他を探す。」
「そうか、悪いな。
――湊、行こうか。」

航平さんに促され、慌てて頭を下げると航平さんの後に続いた。
もう、怖くはなかった。

航平さんの車の助手席に乗り込む。
スポーツタイプの高級車に尻込みをしてしまったおれに、大丈夫だよって声をかける航平さんの表情は優しい。
努めて、優しい表情を作っているようだった。

「どこか行きたいところはあるか?」

乗り込んだ車内で航平さんは言う。

「あの、我儘、言っていいですか?」
「なんでも聞くから。」
「航平さんは一人暮らしですか?」
「そうだ。」
「航平さんの家に行ってもいいですか?」

航平さんはおれを見た。

「我儘でも何でもないじゃないか。」

ハンドルを握った航平さんは車を発進させた。

「そういえば、今日、俺を誘ったのは何か用事があったのか?」

航平さんは前を見ながら言った。
おれは俯く。
言ってもいいかな?子供だって思われないかな?

「今日、おれの誕生日なんです。
だから、ただ一緒にいたかったというか、なんというか……。」

もごもごと答えると、強くブレーキを踏まれ体がシートベルトに食い込んだ。
人通りも車通りも少ない道だったので、周りには迷惑はかかっていないようだった。

「何で言わない……、いや、俺が言わせなかったのか。
本当に俺の家でいいのか?何か欲しいものはないのか?」
「航平さんと一緒に過ごせればそれで充分です。」

俺が答えると、航平さんは「そうか」とだけ言って、また車を発進させた。

だけど、その耳が真っ赤に染まっていることに気が付いて、なんだ大人も変わらないのかと思った。

<リク内容>
大人(包容溺愛)×大学生(健気)でセフレから恋人になったために、受けは攻めが好きで恋人になれて嬉しいけど攻めは大人だし遊び半分で付き合っただけで、子どもの自分からいつか離れていくと思い込んでる。実際は攻めは受けにベタ惚れ。誤解を解いてハッピーエンド。