こいつの温かさであるとか、呼吸をするたびに上下する胸であるとか、そういったもの全てが愛おしい。
自分自身に対して馬鹿だなと思わない訳ではないのだが、今日位はいい事にする。
抱きしめられた手から抜け出すように上の方にずり上がる。顔と顔が丁度同じ高さになる位置までずり上がったところで動きを止めた。
見つめあう恰好になる。
気恥ずかしくなり、ふっと笑うと、意味がわからないようにあいつはきょとんとしていた。
その表情が面白くなってしまい、クスクスと笑いがこみ上げる。
「何か可笑しいですか?」
「いや。」
楽しい気分のまま、そのままこいつの唇に自分のそれを重ねた。
そのまま、そっと舌を差し込むとすぐにこいつの舌が迎え入れるように絡まる。
口の中をくまなく舐めとられる様に舌が動く。
こんな深いほうのキスの経験なんぞ、ろくすっぽある訳もなくただただ翻弄された。
俺が上にいるのもあって唾液が目の前のこいつの口を伝って垂れているのがおぼろげながら分かるけれど口の中を動き回る舌と触れあう唇、それだけで頭の中が一杯になってしまってそれどころじゃない。
気持ちいいというのかどうかも良くわからないながら、このままずっとこうしていたいと強く思った。
どれ位こうしていただろう。
正直いってもう唇に感覚はあまり無いし、なんか唇も舌もはれぼったくなっているような気がする。
あいつの顔を確認すると、よだれで下半分がべとべとだ。
慌てて袖口で奴の口元をぬぐった。
「ああ、もったいない。」
「はあ!?」
状況にそぐわない事を言われ思わず聞き返した。
「折角貴方の唾液がついてるのに拭いてしまってはもったいないじゃないですか。」
そういうと首元にまで垂れていた唾液を指ですくってぺロリと舐めた。
脳みそに蛆でも湧いたのか?相当頭おかしいだろ。
こいつ駄目だ。と思いどこうとするとグイっと抱き寄せられる。
「どこへ行くんですか?」
「もういいだろう。」
「どうしてですか。これからでしょう?」
「何がこれからだ。これからなんぞ無い!」
俺が言いきると、ニヤリと口角を釣り上げた後腰を押しつけてきた。
「勃ってるじゃないですか?」
「……お前もな。」
そりゃあ、あんな濃厚なキスをしてれば誰だって反応するだろう?事実この変態がこすりつけてきた事でこいつも勃ってるのが分かってしまった。
「っつーか、やらねーよ?」
「それは僕とは性交渉はしたくないということですか?」
「っ!?」
違う。そういう事ではない。
「だって、お前俺に突っ込みたいんだろ?」
「ええ、まあそうですね。」
「俺は女じゃなから準備が色々いるんだろ?今日は無理だ。」
別にお前としたくない訳じゃない。
見降ろしているはずなのにすがるようになってしまった。
物凄く恥ずかしくなってしまい視線が合わせられない。
「貴方って人は……。本当に可愛いですね。」
一段と強く抱きしめられたかと思ったら世界が反転した。
どうやったかはよく分からないが俺とこいつの位置が変わって俺が押し倒されている恰好になっていた。
「駄目ですか?」
「今日は駄目だ。っつーか、腹減ってるし、もう疲れ切ってるんだよこっちは。
……それに、頼むからもう少し心の準備をさせてくれ。」
今ももう心臓が破裂しそうなんだよ。察しろよ馬鹿。