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お互いに好きって言い合って、一応恋人同士という関係になって何が変わったか?って目に見える変化は何もない。
相変わらず、変態馬鹿は変態馬鹿のままだし、俺自身よくこいつと付き合ってると思う。勿論、可愛げのかけらもないそもそも男の俺と付き合っている時点で、あいつの趣味も大概どうかしていると思うが。
それでも、出かける前に触れた指であるとか、抱きしめられた時に伝わる体温であるとかそういった物、一つ一つに甘さというかを感じてしまっているのだからもう末期症状なのであろう。
「はぁ!?山中何言ってんの?」
葛西に言われ口を付けていたカフェラテをテーブルに置いてそちらを向く。
目の前の葛西はまるでアホの子でも見るような視線をこちらに送っていた。
今は喫茶店でだらだらと話をしていたところだ。
以前一緒に来た喫茶店を俺自身もとても気に入り、こうやって葛西と来る事も多い。
「何って何だよ?」
「本気で何も変わって無いって思ってるのか!?」
「? ……ああ。」
葛西はガタリと勢いよく立ちあがると座っていた向かいの席から俺の方へと来た。
何故こちらへ来たのか意味の分からない俺はぽかーんと葛西を見上げる。
葛西はしゃがみこむと、俺の来ていたニットのカットソーを下着ごとめくりあげた。
突然の事に咄嗟の反応が何も出来ない。
めくりあげられて晒された肌を眺める葛西と自分自身を確認して赤面してしまう。
「こんなに痕だらけの体で、一体何を言ってるんだよホント。」
もはや新種の伝染病のようだ。そう付け加えながら葛西は意地悪く口角をつりあげた。
葛西が見つめる先にはキスマークと呼ぶには激しすぎるうっ血痕や噛み痕がおびただしい量で付いていた。
「とりあえず、手を離せよ。寒ぃ。」
俺が言うと別にそこまでからかい続けるつもりは無かったようで、すぐに裾を戻して葛西は元々座っていた席に戻った。
「にしても、すげえ独占欲というか執着だなそれ。
もう少しマシだと思ってたわ。」
コーヒーをすすりながら言われた。
「まあ、な。」
確かにそういった行為をする時のあいつは独占欲丸出しで、いつもと別人のようだ。
こっちもそれを見る事が出来るのは自分だけという優越感に浸っているので、それこそお互い様だが。
「明らかに、お前は愛されているよ。」
念を押すように葛西が言った。
「何?俺の事心配してくれてんの?」
俺が聞くと葛西は
「ばーか、そんなんじゃねーよ。」
と笑った。
「なんていうか、男同士でも幸せになれるってのをお前らに証明してほしいだけなのかも知れないな。」
そう自嘲気味に葛西は続けた。
「まあ、とりあえずはそれなりに幸せだよ。」
まあ、残念な事に、非常に残念な事にあいつと共にある事に幸せを感じてしまっている。
葛西は自分自身の恋愛の事はあまり話さないけれど、きっと何かあるんであろう。
友人としていつか話してくれればそれは嬉しいけれど、強引に聞いても意味は無いと思うので気長に待つ事にする。
「それじゃあ、また明日な。」
喫茶店の前で葛西と別れ帰途に付く。
少しずつ速足になっているのが自分でも分かって、思わず苦笑を洩らす。
家に付いて玄関の扉を開けようと手をかける。
鍵は開いていた。
笑みを深める。
「ただいま。」
そう声をかけると奥の方から、愛してやまない、でも憎らしいあいつが出てくる音がした。
終