気がついたら家への帰り道に居た。
引っ越してきてから大して経っていないが帰巣本能というものが働いたということだろうか。
葛西に言われたことがずっと頭の中でぐるぐると回っている。
俺が、あの変態馬鹿の事を?
無い無い、とすぐに打ち消す。
重い足取りで帰路につきながら、あり得ない、あり得ないと頭の中で繰り返す。
だって、あの馬鹿だぞ、変態だぞ、初めて会ってからまだ一カ月も経っていないんだぞ。
会話だって頭のおかしいとしか思えない内容がほとんどじゃないか。
きっと葛西の気の所為だ、そうに違いないと自分に言い聞かせた。
◆
家に着いた時にはもう、少しうす暗くなっていた。
玄関の明りが点いており、同居人がすでに帰宅している事が分かった。
無言で引き戸と開けた。
カラカラと無機質な音が響いた。
「ただいま。」
ポツリと呟くと、玄関から近いあいつの部屋の扉が開いた。
「おかえりなさい。……っと、どうしたんですか!?」
何で、こんな奴の顔をみて、ほっとしてしまっているんだ俺は。
俺はどこか、おかしくなってしまったに違いない。
そうでないと、だって、そうでないと。
あいつは慌てたように玄関に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?具合でも?それとも今日の大学での件ですか!?
……とにかく、部屋に入りましょう。」
俺は、のろのろと靴を脱いだ。
それを確認すると、あいつは俺の腕を引いて茶の間まで歩いた。
なぜ、なぜ、こんな時に優しくするんだ。
いつもみたいに、気持ち悪いこと言えよ、空気読めない振りして馬鹿な行動取れよ、くそ。