愛し合ってみませんか2

あいつは、俺の事は振り回す癖に、絶対にこれ以上踏み入らせないという領域を常に持っている。
だから、一緒に暮らしていても、まるで恋人同士のようにキスをしたって俺とあいつの間には確かな壁のようなものがあった。

それをたたき壊すようなバイタリティなんてものは持ち合わせていないし、結局のところ何も出来ないのだ。

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その日も、朝から行ってきますのチュウ等とふざけた事をぬかした馬鹿の頭をひっぱたいたが、結局あちらの思うつぼなのか、お仕置きと称して濃いのをされたが気にしない。
気にしたら負けだ、クソッ。

案外、あいつはこっちの気持ちを分かっているのかも知れない。
そうだとして、どうだっていうんだ。状況は変わらないのに馬鹿みたいに聞く気にはなれない。

いつものように講義を受けて、葛西と昼飯を食べて、午後の講義は一コマだけ。
それが終わると帰宅する。
ルーチンワークのような日常だ。

(バイトでもするか。)

あいつからは家賃と食費として充分すぎる額を貰っているため、バイトを是非しなければならないかと聞かれればそうではない。
それに、高梨教授に頼まれて、書類の整理や実験の手伝い(といっても実験に使うラットの世話や培養に使ったシャーレの洗浄等雑用だが)をしてバイト代を貰っている。
何でも、普通に学生を雇ったとしてもすぐにあの馬鹿と問題を起こしてしまうそうだ。

本気になれば、人付き合いなんぞ、軽くこなせるだろうに何やってんだか。

ああ、駄目だ。思考があいつ中心に回っている。

悔しいというのとは少し違う、苛立ちにも似た感情が胃の上あたりでぐるぐるしている。

だらだらと歩き家に帰りつくとそこには一台の車が止まっており見慣れない、サラリーマン風の男が立っていた。
セールスか?と思い声をかける。

「あの、ここに住んでいる者ですが、何か御用ですか?」

俺を認識すると、驚いた素ぶりを見せた後、舌打ちをした。
セールスマンではないのかと、自分の浅はかさに気がつく。

そこから相手の動きは早かった。
車の中にいる仲間に声をかけるとすぐに二人の男が降りてきた。
はっきり言って明らかに堅気には見えない。

泥棒か?それとも……。考えがまとまる前に、ゴリラのように鍛えられた男が俺の目の前に立っていた。

――ゴッ

鈍い音が響く。
腹を殴られた。
痛いなんてもんじゃない。

「がはっ。ゴホ。」

蹲る俺の首の下のあたりに鈍い痛みが走った。

視界が真っ暗になった。