俺はゲイの上、猛獣使いの称号を得たらしい。
あの後、爆笑する葛西を無視して昼飯をかきこんだ。
「まさかあそこまで進展してるなんて!!アタシびっくりよ!!」
とオネエ言葉で葛西に突っ込まれたが、言い返す気力はもうなかった。
あんな、あんな公衆の面前でぶちかましてくれるとはさすがの俺も思わなかった。
馬鹿の価値基準はやはり一般とは違うということだろうか……。
イライラとしながら午後の授業へと向かう。
心なしか、周りからの視線が痛い気がするが、きっと気のせいだ。
ここにきてようやく入学式のゴタゴタが落ち着いたと思っていただけに正直ガックリきた。
ニヤニヤと笑いながら葛西が俺の横を歩く。
「まあ、面白そうだし、俺は山中の友達やめないからな。」
「ああ、嫌味にしか聞こえないが、ありがとうな。」
俺が返すと、口元をいっそう吊り上げて葛西は言った。
「なあ、気が付いているか?
山中、公衆の面前だったことはご立腹のようだけど、キスしたこと自体に対してはさっきから全然文句言ってないんだよ。」
「は!?」
俺が口をあんぐりとあけたまま絶句していると、葛西はさらにニヤリと笑った。
「今までもそうだ。パブリックスペースで手をつないだことを怒ったり。同意を得ないまま同居に持ち込んだことに不満はあっても、手をつないだことや同居になったこと自体の愚痴を聞いたことはないんだよ俺。」
そして本当に面白そうに葛西は言った。
「公衆の面前でなければ、手を繋いでもいいのか?お伺いを立てれば同居に異存はないのか?二人っきりならキスしてもいいのか?
よく山中、イケメンだからって言うけど、それカッコいいってほめてるようにしか聞こえないからな。」
最後に葛西は、「なあ、よく考えてみろよ。」と言って先にスタスタと歩いていってしまった。
後には、呆然と立ちすくむ俺だけが残された。
そんなつもりは全くなかったはずだ。俺の呟きだけがむなしく授業が始まって人気のなくなった廊下に響いた。