午前の授業も終わり、葛西と連れだってカフェテリアに向かう。
大学の授業が始まっておよそ1カ月、いつもはおにぎりを持参してその辺で食べるか、購買でサンドイッチでも買うか、そうでなければ学食でうどんでもすすっているかだ。
節約大切、ほぼ男しかいない、旧校舎の学食しか今まで足を踏み入れた事が無かったため、太陽が降り注ぐこのカフェテリアは何か場違いな気がする。
カウンターで葛西とランチセットの注文をする。
その後、お互いにトレーを持ってあいている席を探す。
はっきり言って街中にあるオシャレなカフェとそんなに変わりない。
クルリと店内を見まわしながらそう思った。
このカフェテリアは一般開放されているため、学生ではなさそうな人も案外多い。
キョロキョロしていると、葛西に「おい」と小声で声を掛けられた。
あいている席が見つかったかと葛西の方を見ると、顎で店の奥の方を指された。
そちらの方を見るとそこには、毎日顔を突き合わせているはずの変態らしき男が居た。
「……変態に兄弟って居たか?」
つい首をかしげてしまうくらい、その男は俺が知っている変態と印象が違っていた。
無表情というよりは、若干苛立っているかのような顔で、興味なさそうに、周りの派手派手しい人間の話を聞き流しているようだ。
あいつの右隣に居た、美人の女性が髪にゴミでも付いていたのであろう、あいつの髪の毛に触れようとした瞬間、パシリと手を払われていた。
正にその手自体がゴミですとでも言わんばかりの視線で美人を見据えるあいつから視線を外せない。
茫然とあいつを見る俺に。
「な?正直、入学式の同伴登校が夢だったんじゃないかと思うくらい、普段の佐々木先輩って恐ろしくクールだぞ。」
「嘘だろ……。」
入学式の日のあいつはニコニコとしながら俺の手を握って登校していた。
それを見ていた葛西も、初めは驚いたらしい。
だが、あれが普段のあいつらしい。
とりあえず座ろうという葛西に曖昧に頷いて後を追うが、頭の中はあいつのあの冷たい視線の事で一杯だ。
最初から、俺の前であんな顔した事なんて無いぞ。
やはり、ただ、からかっているってことか?それとも、罰ゲームとか?
だとすると高梨教授の件に説明がつかなくなる。
自分自身の思考がループに陥りそうになった時、あいつの居る方から金切り声が聞こえた。
「なによ!ちょっと触ろうとしただけじゃない!!」
先ほど、あいつに手を振り払われていた女性が叫んでいた。
それをつまらなさそうに見るあいつ。
「何故、お前に触らせる必要があるんですか?」
おいおい、それは逆に火に油を注ぐんじゃないか?
案の定女性は逆上してしまい手を振り上げ、あいつの顔面めがけて振り下ろした。
しかし、それを予測していたらしいあいつは簡単にその手首を掴んで、ギリギリとひねりあげた。
「あ゛、痛い、痛いー。」
女性が叫ぶが、あの馬鹿は眉ひとつ動かさない。