親交を深めてみますか1

「おい、これはなんだ?」

眉間にシワを寄せながらテーブルに無造作に放り投げられたものを見ながら俺が聞く。

「え?当面の家賃ですが?」

何こいつ訳わかんない事聞いてるの?という風に馬鹿が答えた。
別に俺は投げられたものが何だか分かっていない訳ではない。明らかに1万円札を束ねたそれが現金である事位さすがに判っている。

問題はその額なのだ、新札であろうその現金は、紙の帯に巻かれており2センチほどの厚さを持っている。
ハイ、包み隠さずはっきりと言えば、ここに100万円があって、それをこの馬鹿は無造作に放り投げた訳だ。
意味が分からないと言いたくなる俺の気持ちを誰か察してくれ。

「当面ってな……。どれだけ居座るつもりだよ。」

溜息交じりに俺が洩らすと、クスクスと笑いながら馬鹿は口を開いた。

「いつも、食事の支度もしていただいているので、その分も勿論込みですよ。とりあえず2カ月分という処ですが、少なすぎましたか?」
「は!?え……?どう考えても多すぎんだろ?何?あんた、金銭感覚までぶっ壊れてんの?」

馬鹿だ変態だとは思っていたが、こんな部分もこいつはおかしいのか。いや、こいつが大丈夫なところなんてあるのか?俺は心底こいつが心配になった。

「飯なんて、どんなにかかっても月3万がいいところだろうが。そんなすげーもん作ってる訳でもないのに受け取れる訳ねーだろ?」

そう言いながら、束から5枚札を抜いて馬鹿につっ返す。

「とりあえず、今月分の食費と家賃は貰ったから。…あ、領収書いるか?」

領収書の準備なんて勿論ない。じいちゃんの書斎にあったかな?と腰を上げようするとニコリとイケメンスマイルを浮かべながら馬鹿が

「別に領収書はいりませんよ。……あなたは本当に欲ってものが無いんですね。」

と言った。

「……分かってて試したってことか?」

若干イラつきながら俺が聞くと、手を前でブンブンと振りながらとんでもないと返された。

大学でいやってほどこの馬鹿の噂を耳にした。
馬鹿は所謂天才というやつで、細胞に関する研究を高梨教授としているらしい、その頭脳と美貌で取り巻きを食っちゃ投げの生活をしていたらしい。

俺には単なる馬鹿にしか見えないが、一応おつむの方はちゃんとしている『らしい』。

だからこそ、この金銭感覚の崩壊している部分や、俺に対しての過剰なスキンシップが態とやっているものなのか、それとも何も考えていないからなのかの判断が俺自身ついていない。
もし、前者だとしてこいつは何の目的でそんなことをしているのかさっぱり見当もつかない。

くそ、大学入学に合わせて癖になってしまった舌打ちをして立ち上がり、自室へ引きこもろうとするが同じように立ち上がった馬鹿に腕を取られて、そのまますっぽりと抱きしめられた。

「何するんだよ。」

出会って数日しかたっていないにもかかわらず慣れてしまった、この行為に低い声で抗議する。
正直言って慣れたくなんて無かった。

「何って、そんなこと聞くなんて野暮ですよ。」

そう言って顔を近づけてきたので、慌てて自分自身の手で唇をガードした。
しかし、俺のその行動は予測済みだったようで、簡単に手首を掴まれて外されてしまう。
優男風なのにどこにそんな力があるんだよ!!俺はそう突っ込みたかったがそれは出来なかった。
俺の手をどけた瞬間、噛みつくようにキスをされたからだ。
舌を入れられた時は絶対に噛み切ってやる、俺の気持ちが伝わったからか舌こそ口内に入れられはしなかったがぶちゅーっとやられ、唇を舐められた。
舐められたんだぞ……。
その事実に茫然としている俺にかまわず「ごちそうさまでした。」そう言ってあの変態は部屋から出て行った。

ごしごしと皮がむけるくらい唇を袖口でこすりながらからかうのもいい加減にしろと苛立ちを募らせたのは言うまでもない。