※ファンタジー世界。
男が普通に妊娠する世界観で且つそれについての説明をしていませんのでご注意ください。
(受けの妊娠出産表現があります)
–とある部下視点–
上級騎士にだけ認められた白馬に乗り騎士団は遠征に出発した。
国境付近で少々小競り合いがあったためだ。
俺を含め騎士団の半数ほどのメンバーはそれを見送った。
帝都に残るメンバーに騎士団の中でも実力があるとされたグレンさんが居た時点でおかしいと気が付くべきだったのかも知れない。
副長は帝都のメンバーを統括するために残った。
今にして思えば、副長が遠征に行って且つグレンさんが辞めた時にまとめ役が居なかったからなのだろう。
恐らく、副長は知っていた。
大問題になるかと思われたグレンさんの退役は、思いの外ひっそりと行われた。
正直、自分を含めた騎士団の殆どの人間が何故グレンさんが退役するのかと不思議だった。
副長からは何も無かったし、戦闘で怪我をした等と聞いた事も無い。
確かグレンさんはご両親を早くに無くしており、家業を継ぐ必要も無かったはずだ。
後輩としてそれなりにかわいがってもらっていたと自負している俺が退役の為の荷物の整理をしているグレンさんにそっと聞いた。
「何故、やめるのですか?」
グレンさんは男前な顔をくしゃりと歪め困った様に笑った。
「言ってはくれませんか。」
信頼されていないのだと、とても悔しい気持ちになった。
眉を寄せ、睨みつける様にグレンさんを見ると、ふっと気の抜けた笑いがグレンさんからこぼれた。
「どうせ、暫くしたら分かる事だけど、俺妊娠してるんだ。」
グレンさんは言った。
女性に比べ著しく妊娠率は低いが男でも妊娠は可能だ。
そして、この国では婚姻も出来る。
男女の夫婦に比べては明らかに同性婚は少ないが、それでもそれなりの数のカップルが毎年結婚をしている。
「ご結婚されるんですか。おめ」
「結婚はしない。」
お祝いの言葉は最後まで言わせてはもらえなかった。
この国では基本的に、子どもを産むということは結婚をするという事だ。
結婚出来ない相手との子どもなのだろうか。
「……父親は。」
俺が絞り出す様にいうと。
「さあ。」
これ以上は踏み込ませない。そんな意志を感じる瞳が返ってきた。
「これからどうするつもりですか?」
両親の居ないグレンさんにとって頼れる伴侶の居ない出産は男の俺から考えても無謀だ。
「街のはずれに家を借りたよ。
騎士団に入る前は薬師をやっていたから復業する予定だ。
僅かばかりだが、恩給もでる。
それで何とかやっていけるはずだ。」
グレンさんはそう言った。
覚悟を決めた人間の目をしていた。
「たまには、顔を出しても良いですか?」
俺が何とかそれだけいうと。
まあ、気が向いたら顔くらい出してくれ。
そう言って笑った。