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いつもより熱めのシャワーを浴びながら、いつも胸の内で渦巻いていた感情が全くなくなっていることに理一は驚きが隠せなかった。

だって、ありえないのだ。
絶対に消せないとわかっていたからこそ理一は一色をあきらめたのだ。
高校までは自由にと父親と約束していたのだって、そのためだ。

「これが、愛の力だって?」

理一は自分でつぶやいてのたうちまわりたくなる。

そもそも理一は一総に対して特別な感情は抱いていない。
それは今も変わらない。

何より、一色純に対して感じてためちゃくちゃにしたいという感情を一総に対してはもっていない。

それに、あの言葉が本当かもわからないのだ。
一総の異能についても理一がいま理解している内容が正しいのかもわからない。

瞳のことに言及されなかった気もする。

だた、美しい生き物だと言われたことを思い出して理一は身震いをした。

知らなければならないと漠然と思う。

少なくとも一総は理一の瞳を見ても変わらなかったように見えた。

一つだけ、理一には一総の本心を知る方法があった。
それを使っていいのか悩まなかったといえば嘘になる。

けれども心はすぐに決まった。

シャワーを止めて部屋に戻ろうとする。
そこで初めて着替えを持ち込まなかったことに気が付く。
しかし、脱衣所にはおそらく一総が置いたのであろう、真新しい部屋着一式が置かれていた。

色々考えるのはやめて、理一は一総の用意した服に袖を通した。

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