真っ白になった意識は直ぐに回復した。
けだるさだけが残る体にせっかくならもう少し気を失っていたかったと理一は思う。
自分の体質的に無理なことは知っている。
けれども、この酷く気恥しい余韻の残る空間に意識を保って居たくはなかった。
することはしたというのに、再び一総は理一に触れる。
それは色を含んだものでは無く、ただそっと理一の頭をなでるものだった。
触れた瞬間、未だ敏感なままの体がビクリと震えた。
いたたまれなくなって視線をシーツに落とした理一は、余韻でボーっとした頭で考えようとしたが上手くまとまらない。
そもそも体が汗とその他もろもろの体液でドロドロになった体が気持ち悪い。
自慰行為の後に来る賢者タイムの様なものだろうか、一総と今した行為そのものよりも、違う事実ばかり頭に浮かぶ。
そして漠然と、今までしてきたものが、マッサージの様なもの、一総曰くセックスセラピーらしいものだという事が理解できた。
ただ、今日したそれが普通のセックスか?と問われれば一総としか経験の無い理一には分からない。
「少なくとも高校生のセックスじゃないっすよね。」
一総の視線から逃れるようにうつ伏せになって枕を見る理一は言う。
突然、脈略もなく発せられた言葉なのに、一総は全く動じず、気分を害した風でもなく返す。
「そうか?まあ場数踏んでる数は違うけど、普通に心を込めて抱いたつもりなんだが……。」
言われた言葉に理一は思わず吹き出す。
「なんすか、それ。心をこめるって……。」
久々に愉快な気持ちだった。
誰かとこんな楽しい気持ちで話をするのは久しぶりだった。
「好きって気持ちを込めたつもりだったんだが、伝わらなかったか?」
理一には分からなかった。いつものセックスと違うことだけはしている最中も今も十分に感じたけれど好きとか言われても分からない。
――だって、好きだってなって何になる?
恋愛は怖い。
好きという気持ちを持ったとして、結局湧いてきてしまうのは破壊衝動だ。
家ぐるみで愛する人を監禁してそれで何になる。
一総にしたって、仕事をしたくないが通るのであればとっくにそうしてるだろう。
木戸は木戸として、花島は花島として生きるしかないのだ。
「アンタはどうしたいんすか?」
一総と言う人間が結局何にもならず、どうすることもできず、それでただ好きだとぶつけるような男には思えなかった。
いや、告白というものがそもそも何かを求めて言うのとは違うのかもしれない。
結局、理一は一色純に告白はしなかったが、それは見返りを貰うのが恐ろしかったからだ。
見返りがあるとかないとかそういうこととは関係なくただ言いたいから言えば良かったのかもしれない。
「木戸のその自由に動けない枷を、取りたいとは思っているよ。
共に生きていきたいから。そのために、花島のルールが邪魔なら俺は花島を掌握することもいとわない。」
何も知らないくせに、何も言っていないし、話す様な仲ではないのに一総がまるで全部分かってるように言われて理一の心は波立つ。
逃げるように飛び起きると、「風呂借りていいですか?」と聞き返事も待たずに風呂場に逃げ込んだ。
風呂の位置を知っていて本当に良かったと一人になった浴室で理一は思う。
その段になってようやく、焦燥感も苛立ちも何も感じていなくなっている自分の心に気が付いた。