そっと触れた体は、当たり前だが女の様に柔らかくは無い。
けれど、自分の体がこの人の触り心地を覚えていて、それを渇望していたことに今更気が付く。
それは、戦いに明け暮れていても、酒を飲んでも、誰かの称賛を浴びても薄れる様なものでは無かった。
「なあ、灯り消さねーか。」
グレンが言った。
恥じらう様な仕草では無い。
「充分薄暗いと思いますが。」
そう言うと、長い長い溜息の後ぽつりと「お前素面だと萎えるんじゃねーかと思ってな。」とだけ呟いた。
「は?アンタ、何言ってるんですか?
さすがに、聞き捨てならないんですが。」
舌打ちが思わず出る。
ある程度今までの所業を思い出して、自分が酷く短気でろくでなし何だと気が付く。
「俺がアンタを抱きたくてたまらないってどうすれば信じてもらえますか?」
あの人の瞳がゆらゆらと揺れた。
それから「あー、分かった。好きにしろ。」と言って、ベッドにバタンとあおむけに寝ころんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふぁッ…、ああっ、あっ……。」
鼻から抜ける様な喘ぎ声がグレンから出たのは、挿入して随分経ってからだった。
久しぶりの行為だ。完全に体は俺と初めてセックスをする前に戻っている様に感じた。
今度こそ傷付けない様に、つらい思いをさせない様に、丁寧に解す。
「もう、いい加減に…、突っ込めよ。」
相変わらず、異物感に眉をひそめているのにそんな事を言われる。
「せめて、それなりに気持ちよくなるまではやりますよ。
素直に喘いでいてください。」
男性同士の性行の知識はあった。
香油を後孔に塗りたくって、中を広げる。
グチグチという音がこちらの情欲も煽る。
前を触るとそこはすでに反応していて安堵する。
今までの無理な行為でもはや嫌なものにはなっていないらしい。
「な、なあ……一緒に。」
懇願するようにもう一度言われてもう限界だった。
グチリ、グチリと起立を埋め込むとキツイ位に絡みついてくる。
汗が、ボタリとグレンの肌に落ちる。
正常位で挿入したため、かなりグレンに負担はあるだろう。
なのに、なのにも関わらず、この人は笑顔を浮かべたのだ。
それは挿入の違和感に耐えた他人から見れば酷い物だったかもしれない。
けれど、凄まじい色気を感じられるその表情を見て、思わず涙が溢れた。
「ちょっ……、何泣いてるんだよ。
あぁっ、っていきなりでかくするな馬鹿。」
あの人が腕を伸ばして涙を指で拭う。
「お前がまともな表情でセックスするとこ初めて見たわ。」
嬉しそうに言われ、今まで一体どんな抱き方をしてきたんだと思う。
腰を緩く引いて、また最奥まで沈める。ゆっくりとした動作で腰を動かすとお互いの息が上がる。
確認した訳では無いが、キスがしたくてたまらなくなって唇を奪う。
グレンの舌はすぐに応えて絡まる。
彼の瞳はすでに快楽にどろりと溶け始めてぼんやりとしている。
もっと、もっとドロドロのぐちゃぐちゃにしてしまいたかった。
グレンは、2、3度目を瞬きして、それから先程より少しだけ理性が戻った顔で言った。
「好きに動いていいぞ。」
何でも、お見通しということだろうか。
完全に昔から完敗しているであろうことは知っていたがこんな時まで気が付かれてしまうのか。
「滅茶苦茶にしたくないって言えば嘘になりますけど、今日は二人で気持ちよくなりたいんです。」
初めてみたいなものなので。
そう言うと、グレンは顔を真っ赤にして中を締め付けてきた。
その反応は反則だ。
思わず中で暴発しそうになる。
すんでのところでこらえるが、もうそんなに持ちそうに無い。
お互いの快楽を追うための動きに変えると、グレンも切羽詰った喘ぎ声を上げる。
その姿が可愛くて、愛おしくてたまらない。
ほぼ同時に果てると、お互いに顔を見合わせて笑った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「これからはここで暮らしてくださいね。」
多分、というかかなりの可能性で『結婚とかそういう形にはこだわらないぜ。』等と言い出しそうな伴侶に一応釘をさす。
「いや、だって……。」と歯切れの悪いグレンに
「メイドには伝えておきますので勝手に出て行かないで下さいね。
警備の問題もありますし。
祝賀行事が終われば一度帰ってきますから。」
警備のという話を強調する。責任感の強いこの人のことだ。こう言っておけば勝手にどこかへ行ってしまうことも無いだろう。
「分かった。」
不承不承といった風情だが一応返事はもらえたので良しとする。
「帰ってきたら、剣の稽古に付き合ってくださいね。」
「強くなってるんだろうな。」
「どうでしょうね。」
腰がおかしいと言いながら見送りをしてくれたグレンにそういうと、いつもの様に面白そうに笑った。
「お父さま、いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
シャーリーが手を振る。
この幸せは多分きっとずっと続くだろうと思った。
了
お題:お互い意識がある初めて、お子様に父親だと紹介するところ