圭吾さんはしばらく俺の走り書きを見ると、ふうと息を吐いた。
それは、ため息のようで、ああ、期待はずれだったんだなと思った。
紙から目を離した圭吾さんと、目が合った。
思わずギクリと体を硬くすると、圭吾さんは目を見開いて、それから少し興奮した様子で言った。
「これ、俺の手で是非曲にさせて欲しい。」
その言葉は、冗談やお世辞には聞こえなくて、ただただ目の前の人は本気で曲にしたいと思っていっている様だった。
「ほんとう、ですか？」
恐る恐る聞いたこれは自分でも馬鹿だと思うくらい震えていた。
認めてもらえるなんて思っていなかった。
だって、自分と圭吾さんはあまりにも違っていて、俺は単なる大学生で、声以外の何かが必要とされるなんて思ってなかった。
「お願いします。」
そういいながら、涙が瞳ににじむ。
それを隠す様に無理やり笑顔を作る。
圭吾さんは全部分かってるみたいな顔をして笑顔を浮かべ、それから二度三度、俺の頭を軽く撫でた。
何も言葉にできなかった。
「曲できたら俺が歌ってもいいですか？」
「勿論だよ。俺も歌うし。」
おそろいみたいなものだと圭吾さんは言った。
俺と圭吾さんはおそろいのものは何も持っていなかった。
ゲイである事が、圭吾さんが会社を辞めた遠因の一つになっている事は明白だった。
圭吾さんは気にするようなそぶりを見せた事はなかったし、愚痴をこぼした事もなかった。
だけど、他人から見て、俺と圭吾さんが恋人に見える事が嫌だった。
ライブの前だって、全部全部俺がいけなかったのだ。
大好きな人と一緒に居られる事に浮かれすぎていてうかつだった。
それなのに圭吾さんは俺のことを心配してくれた。
それで充分だった。
友人だと思われるので良かった。
だから、そろいの指輪とかそいうったものは要らなかった。
欲しいと言ったこともなかった。
それなのに、圭吾さんは俺が本当は一番欲しいと思っていた、おそろいだというのだ。
ヤバいと思ったときにはもう遅くて、涙があふれていた。
圭吾さんは俺のまぶたにそっと唇を落とした。
彼の触れたところが熱かった。
それから、頭がぼーっとして、まるで知恵熱を出した子供みたいにふわふわした中、程なくして俺だけ先に寝てしまった。
◆
次の日、起きたときにはもう曲は出来上がっていた。
デモ音源を聞いて、改めて圭吾さんのすごさを実感した。
今まではただ、漠然と、ミヤという人はすごいと思っていただけだった。
憧れていたし、神様のような存在だった。
けれど、今分かるのは、圭吾さんとの確かな隔たりだった。
追いつけないかもしれないと思う。
けれど圭吾さんと同じところまで進みたいと思った。
「早速練習してもいいですか？」
俺にできる事はまだ少ない。
だけど、一歩一歩彼と同じ道を進みたいと思った。
「ああ、いいけど……、悪いちょっと俺は限界だ。」
寝ると言って、ふらふらと寝室へ向かう圭吾さんの顔は、昨日よりひげが酷い事になっていた。
その曲は、初めて俺が携わった曲で、多分一生忘れない曲になるのだろうという予感があった。
了
リク企画
お題：新曲、転換期、甘々、おそろい、作詞