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小西先輩に糸が見えていると確信したのはそれからしばらくして、直接対面する機会があった時だった。

教師に頼まれた、ノートを職員室に届けた時だったと思う。

彼も丁度職員室に来ており、目的の教師と話していた。
こんなに近くで会うのは初めてで、それでも糸は目の前で繋がる事は無く、部屋に糸を引っ掛けて来てよかったと安堵する。

彼の左手は細かな引っかき傷がびっしりと付いていた。

それを見て、思わず息を飲んだ。
そんなにも、あの転校生と繋がっていない糸が憎かったのだろうか。

この前の出来事、それから小指の傷でこの人は見える人なのだと確信した。

あの人は、教師と話を終えると横でジッと彼の左手を見つめる俺に不思議そうな顔をした。その後すぐに何かに気付いた様に俺の目を見て、それから頭の先から足の先まで確認するように見やった。

俺も見えているという事に気付かれたなと思ったが、無視をするように担任に声をかけ、ノートを渡した。
その様子にあの人は諦めた様に職員室を出て行った。

教師と少し話をしてから職員室を出ると、そこには居なくなったと思っていた小西先輩が、壁に寄り掛かっていた。

俺が出てきた事を確認すると、ヘラリという擬音が付きそうな笑顔を浮かべた。
しかし、その瞳はまっすぐに俺を射抜いていて、とてもじゃないが友好的だとは思えなかった。

「ねぇ、君。コレ見えてるんでしょ?」

忌まわしそうに、左手を上げながら言った。
しらばっくれて逃げようかと思った。

だが、あの絡まった人を見つめていた彼の顔がフラッシュバックするように脳内で再生されて出来なかった。

「見えています。」

苦々しい気持ちで答えた。

「ふーん。君、霊感が強いとか、そーゆぅ奴?」
「……家が縁結びの神社なんです。」

調べればすぐ分かる事だ。
観念したように俺が言うと。納得したように一度頷いた。

そんな姿も、様になるのだから美形は得だなと思った。

「聞きたい事が沢山あるんだけど、良い?」

良いと聞きながらもこれは多分拒否権が無いやつだろう。
ほの暗いその瞳にどれだけ彼が追いつめられているのかが分かる。

俺は、家族全員が見えていて、糸についての知識もそれなりにあった。
それでさえ、この糸には懐疑的なのだ。

何も知らない彼がこうやって、ジワジワと追いつめられるのも道理だ。
しかも今彼は転校生に恋をしている。

「会計様のお部屋で説明するので良いですか?」

その辺で出来る話しではないだろう。
だが、俺の部屋は駄目だ。糸が繋がっている事がばれてしまうから。

こんな話、見えない人達の前でしたら頭がおかしくなったと思われますよ?そうたたみかける様に言うと「わかった。」と返事をされた。

役員専用階へエレベーターを進める為のカードキーを投げる様に渡されて、夕食が終わったら来るように指示をされた。

彼は、もう一度、指から垂れ下がる糸を見た後踵を返し去って行った。

俺はただその場で暫くの間自分の指から伸びる純白を見つめていた。

一話了

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