「で、俺の恋愛事情は別に拓斗には関係ないでしょー。」
開き直ってそう言ってみるが何とも締まらない。
本当にもう、何だってんだ。頭の中で一人じたばたと暴れる。
マジでこいつ何しに来たんだ。俺の事からかいにだったら追い出してもいいよな。
うん、追い出すか。それか、今日は正直もう小鳥遊を眺める気分になれそうにないので俺が帰るか。
うん、そうしよう。
ふう、と息を吐いた後「それじゃあ、俺帰るわ。」と言って立ち上がろうとした。
けれど、俺の腕を握る弟に邪魔をされて、それは叶わなかった。
「なにー?たっくん寂しくなっちゃったのかな?」
とりあえずからかってみたが弟の手が離れることはない。
「…お前は、何故そうやって道化を演じ続けられるんだ…。」
そう言われるが、意味が分からない。そもそも道化ってどういうことだよ。
「えっと?何の話かお兄ちゃんに分かるように説明をお願いします。」
あまりに真剣な目で言われたので、とりあえずどういうことか聞いてみる。
「…この前の件、お前が俺とツバサの間に割って入ったって事になってるだろう。お前は否定するどころか嬉々としてあて馬ポジションを買って出て。お前本当にそれでいいのか?」
この前っていうのはツバサちゃんと弟が付き合うきっかけになった日の事だろう。いいのか?って良いに決まっている。
「は?いいにきまってるじゃん。ここで周りに事実を言って歩いてどうする?勘違いで襲われたって晒しものになるのツバサちゃんだぞ。お前こそ本当にそれでいいのかよ!?」
別にお前のためにやったんじゃないそう言外に言うと、弟は目を見開いて絶句した。
「まあ、俺が他の人間の目があるところでお前を殴ったりした所為もある訳だし。そもそも、俺が遊び人だったということはゆるぎない事実なわけだし、自業自得って事でほっといてるよ。」
ははは、と笑ってみるが相変わらず弟は真剣な表情のままだ。
「俺は、お前がちゃらちゃらやっているために、比べられて、お前のような恋人の方がいいって誰でも思うもんだと思っていた。だから、色々諦めていた。
けど、それ理由にして、絶対やってはいけない事をツバサにしでかして、でもあいつは許してくれて。そしたらお前まで、俺を庇うような事をしたんで…。」
それっきり弟は俯いて黙ってしまった。
「俺がフラフラしている所為で、拓斗にもツバサちゃんにも迷惑かけちゃったからせめてそのくらいしないとね。」
特にツバサちゃんにはかなり迷惑をかけたつもりだけど、今も変わらず友達付き合いをしてくれているので感謝してもしきれない。
俺がそう思っていると、弟は椅子から立つとすたすたと教室の出口へ向かって歩いていく。
教室から出る直前で立ち止まって
「悪かった。……それと、ありがとうな。」
そう振り返らずに言ってそのまま教室を出て行った。
正直、あの弟が俺にお礼を言うなんてとかなり驚いた。
もしかして、いや、もしかしなくとも弟はこれを言うためにわざわざ俺の所に来たって事だろう。
その事実に、あいつも変わったなあなんて考えながら恋人が居るってうらやましいと素直に思った。