真っ直ぐに見つめる3

って、大丈夫じゃないじゃん。
ここ、寮の廊下でパブリックスペース…。

きょろきょろ、と周りを見るとまばらなものの人もいる。
ど、どーする俺。

「で、何の騒ぎだったんだ。」

と拓斗の同室者に声をかけられた。
いや何って、どーしよー。仕方がなく思いついた事を実行する。
と言っても、さも俺の言ったセリフと拓斗がいったかのように言い訳するだけだけど。
俺と拓斗は双子なだけあって、声も似ているので、よっぽど注意して聞いていなければ判別付かないだろう。
後半俺の声はそんなにでかくなかったはずだから外野もたぶん聞こえていない、それに少し嘘を混ぜ込めば…。うん、大丈夫。

「いや、拓斗の恋人、間違えて夜のお供に誘っちゃって、喧嘩してたんだけど、なんか、むかついちゃって、八つ当たり?的な?うんそういう感じで…。」
「ああ…。もういい。お前本当に発情期の犬かなんかか?とりあえず小鳥遊呼んだから、回収してもらって帰れよお前。」
「た、小鳥遊ってなんで…。」
「は?同室だろ?お前ら…。」

周りにいた人たちも、なぜか納得したようで、興ざめと言う感じでバラバラと自分の部屋に入っていく。
とりあえず、ツバサちゃんの変な噂が出ることはなさそうで良かったけど、何で小鳥遊呼ぶんだよ。
と思っていたら、俺の後ろに気配がする。
がばっと振り返ると、小鳥遊が居た。
拓斗の同室者が挨拶をしつつ

「あー、なんか人の恋路邪魔して、馬に蹴られただけみたいだけど、この発情犬ほっぽっとくとやばそうだから、とりあえず部屋に連れて帰って?」

と小鳥遊に言う。
小鳥遊はちらっと不機嫌そうにこちらを見ると「行くぞ」と声を掛けられ、洋服の首根っこを掴んでずるずると引きずる。

引きずられながら、首に当たる手にドキドキする。
けど、それよりも、今はそれよりも気になることがある。

(発情犬か…。)

下半身ゆるゆるの生活を今まで送ってきた自覚はある。
けれども、それはセフレと同意の上で、誰にも迷惑をかけていないと思っていた。
俺の認識とは違うのかもしれない。
今さっき言い合った時に拓斗の言った「俺はお前の代用品なんだよ」という言葉が頭から離れない。
俺の所為で、拓斗に余計な面倒をかけていて、その所為で、ツバサちゃんとの関係をこじらせてしまった。

本当、何やってんだ、俺。

自然と、眉間にしわが寄る。
たぶん謝ってどうこうなる問題ではない。そう分かっているけど…。
ツバサちゃんなんて完全に被害者じゃねーか。
まじで、へこむ。

「…、おい、付いたぞ。」

小鳥遊に言われて気がついたが、部屋の前まできていた。
ふっと振り向いた小鳥遊の目が、ほんの一瞬、驚いたという感じで見開かれるが、すぐ元に戻った。

「何?」

訊ねてみたが返事がない。
ッチと舌打ちをされて、腕をひかれる。
玄関で靴を脱ぐのもそこそこに、リビングスペースへ引っ張って行かれソファーに座らせられる。

本当に何なんだ。
送迎をやらされてイラついてんのか?

ぼーっと小鳥遊の方を見ると

「お前、今、自分がどういう顔してるか分かってるか?」

と聞かれた。
顔?別に普通…と思った時気がついた、ああ、俺、今ひどい顔してるんだろうな、所謂憔悴したって感じの…。
普段、基本、ヘラヘラ、ちゃらちゃら、にこにこしてるもんな俺。

何とか、いつもの緩い感じの笑顔を作る。
普段どうやって俺笑顔作ってたっけ?
あれ?わかんねえや。