もう、放っておいて欲しかった。
そんなに、諏訪野が自分のことを嫌なのであれば今すぐにでも彼の世界から福島は消えてしまいたかった。
しかし、いつまでたっても諏訪野はそこにいた。
睨みつけるように福島は顔を上げたが、涙で滲んだ視界ではよく分からなかった。
乱暴に袖口で目元を拭いて、もう一度諏訪野の顔を確認した。
諏訪野の様子は福島が想像していたものと違った。
視線はうろうろと彷徨っているし、心なしか頬が上気している様に見えた。
「な、なんですか。」
「知るか……。俺だってなんでだか分からねーんだよ。」
諏訪野はそう言いながらしゃがみ込むと、福島の顔を優しくぬぐった。
「俺は、貴方の前から消えた方がいいのでしょうか……。」
それなら、両親に話をしなくてはいけない。そう続けるつもりだった。
「ふざけるな。」
諏訪野の声がはっきりと響いた。
「俺のそばから離れることは許さない。」
「俺のことがムカついてしょうがないのに?」
「それでもだ。」
ふざけるなと言いたかった。
けれども声が出なかった。
それは、諏訪野の真摯な声の所為だったのか、それとも彼の瞳に嫌悪感が無かったからなのか分からない。
「俺は、アンタのこと嫌いになることにした。」
福島の口から最初に出たのは、そんな言葉だった。
「まるで……。」
何かを言いかけて諏訪野は口を噤んだ。
「別に、いがみ合ってるのは前からだろう。」
そう言うと、諏訪野は不敵に笑った。
それは、生徒会長としてするいつもの表情だった。
だけど、何かが違う気がした。
「また、明日、な。」
諏訪野は福島の頭を2、3度撫でると部屋を出ていった。
頭をなでるなんて接触をしたのは初めてだった。
福島は暫く呆然とした後、そっと諏訪野が触れた場所に手を伸ばした。
それだけで少しだけ救われた気がした。
了
リクお題:容姿男前主人公受け/王道設定/犬猿の仲