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「――おい!!」
急にした声に思わず顔を上げた。
そして、ここにいるはずの無い諏訪野がいることに驚く。
福島は、なぜ諏訪野が自室にいるのかが分からなかった。
キョロキョロとあたりを見ると、照明が付いている事に気が付く。
福島は付けた覚えがないので、恐らく諏訪野が点けたのであろう。
床にそのまま座り込んでいた福島が見上げた諏訪野の表情には怒りが浮かんでいた。
「お前、柚木に何を言った。」
いつも、言いあいをするときより、数段低い声だった。
「柚木というのは、転校生のことですか?」
そもそも、名乗ってすらいないのだ。
ここまで、諏訪野が怒っている様に見えるという事は、思い当たる節は一人しかいなかった。
「何って、友達になろうと言われたから断っただけですが。」
思い出したくもなかった。
「じゃあ、なんであんなに落ち込んでいたんだ!」
激昂して、諏訪野は叫んだ。
「知らないですよ。
ただ、あの人が俺のこと、笑わせてみせるって言うから、そんなことは無理だって答えただけです。」
福島は、はっきりと言って、諏訪野を見据えた。
諏訪野は鼻で笑った。
「お前が、笑う?無いな。
優しい気持ちでお前を笑わせたいと柚木が言ったとしても、その優しさを感じられない人間に笑う価値等無いだろう。」
無いとはっきり言われ、福島は転校生に言われて、それでも我慢していた堰が決壊した。
頬が熱かった。
それが涙だと気づくのに暫く時間がかかった。
ぼやけた視界で、それでも福島は諏訪野の方を向いた。
「もう、充分だろう!
出てってくれ。」
いつもの様なしゃべり方もできなかった。
何もかもが限界だったのだ。
ボロボロと涙はこぼれるし、このままだと嗚咽も漏れてしまいそうだった。
だって、昔、もっとずっと二人が幼かった頃、諏訪野が福島に言ったのだ。
『無理して笑わなくても、大丈夫だろう。』
そう言ってもらえただけで十分だった。
成長するにつれ、関係がギクシャクしてしまっても、気にくわないと思われていても、それでよかった。
諏訪野に大切な人ができたら、祝福しようと思っていた。
だけど、諏訪野の大切な人に笑えと言われるのも、諏訪野自身に笑う価値がないと言われるのも、辛すぎた。
諏訪野が、そっと手を福島の頬に差し出した。
それを、福島は思わず叩き落とした。
ただ、ひたすら惨めだった。