その頃の俺は、まだ深い淀みの中にいたように思う。
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「お前って、優斗と違ってつまんねーのな。」
相手は何気なく言ったんだろう。理性ではそれが分かっているが、心が勝手に傷ついていく。
一卵性の双子ということで、俺と兄である優斗はよく比べられていた。
社交的な兄に対してどちらかと言えば内向的な俺は友人もできにくく、両親も扱いにくい子として接していたと思う。
全寮制の中学に入った後も、兄はいつも友達に囲まれており、ファンクラブのようなものが出来たらしい。俺のポジションは優斗と同じ顔をした弟ということで定着した。
別に、沢山の人と過ごすのが好きというわけではないので、一人で本を読んだりすることが多くなった。
そんなある日、寮の共有スペースで居眠りをしてしまった俺は、下半身の違和感で目を覚ました。
同室者が、俺のズボンを下ろして俺のを咥えている。いや、いや、いや、てめえ何やってんの?というか俺も何でこんななるまで起きないんだよ?
「あー、やっと目が覚めました?仕込んだ薬多すぎたかと少し心配しちゃいました。」
なにへらへら笑ってんだこいつ。というか何でこんなことになってるんだ。
こいつ俺のこと好きとかそういうやつか?
「あん、ゆーとく~ん」
ハートマークでも付きそうな甘えた声で兄の名前を呼ばれる。ここは俺の部屋でもあるし、兄と勘違いしている可能性は無いだろう。
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悪夢のような時間が終わり、トイレに駆け込み胃の中身を吐き出す。
「ゲホッ、ゲホッ」
気持ちが冷めきっていても、体は反応するんだな。マジで最悪だ。
同じ顔なら代わりになると、本気で思っているのだろうか?
その疑問もその後同じようなことが複数回あれば、自然と解けた。
結局のところ俺を見ている人間など居ない。
今になってみればそんなことないと分かるのだが、当時の俺はそう思っていた。そう思って自分とそれ以外に線引きをして引き離さないと精神的に持たなかっただろうというのもあるが……。
ツバサと委員会で知り合って一緒に仕事をしていた時だって、あいつは俺だけを見ていた。
俺が好きだといった本を、自分も読んで感想を言い合ったり、閉架の整理の時も手伝ってくれて、幻の名作と言われる本を見つけて二人で感動したり。普通に考えて、兄相手の態度ではなかった。
無理やりしようとしたときでも、俺のことを拓斗だと見抜いてくれた。
いつも、いつもあいつは俺のことだけを見てくれていた、俺がそれを信じられず、否確認しようとすらしていなかった所為であいつを何度も傷つけた。
それでも、俺と共にいることを選んでくれたツバサを大事にしたい。
特に最近、かわいくなったとかで害虫がはたき落しても、はたき落しても湧きやがるし。もう絶対に手放したりしない、そう心に決めた。
終