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誕生日当日友人たちは皆、恋人と過ごすだとか、バイトだとかで、やっぱり一人だった。
一人で家にいると、寂しい気持ちになってしまいそうで出かけることにした。
何か買い物でもしようと思う。
だけど足は、いつも航平さんと会うホテルの方に向かってしまっていた。
今は日曜の昼間だしいる訳がないのに。
夜しか見ることの無かった豪華なホテルを見上げる。
今まで航平さんしか見て無かったのだろう。ホテルは思ったより洗練されている。
いつも、こんなところに来ていたのかと少しだけ驚いた。
でも、支払いは常に航平さんだった。
本当に良かったんだろうか。
おれが子供だから、払わせてはくれないのだろうか。
なんだか虚しくなってしまって、家に帰ろうと思って踵を返すとそこには航平さんが居た。
ただし、横にはすごくきれいな男の人が隣にならんでいた。
とても親密そうな二人にに殴られたみたいな衝撃を受ける。
声も出なかった。
ああ、そういうことかと思った。
やっぱり、遊びなのかって。
喉がカラカラに乾いたみたいになって、頭の中が真っ白になった。
いつかは、ゲイバーで知り合った子供のおれが要らなくなる日が来るって思っていたけれど、これはいきなりすぎる。
どう考えても、俺よりも、今隣に並んでいる綺麗な人の方がいいだろう。
おれは、航平さんとそんな風に親密に話せないし、並んでも男同士だってことを忘れてしまう様な美貌もない。
何より、俺が子供過ぎて、きっと対等にはなれない。
「親戚の子?」
綺麗な人が航平さんに聞いた。
そうだ、おれと航平さんはその程度にしか見られない。
ああ駄目だ、と思ったときにはもう遅かった。
視界が滲んだと思ったら、涙がボロボロとこぼれ出した。
ぎょっとする二人の表情は目に入るのに涙を止めることができない。
「湊っ!?」
焦った声で航平さんに声をかけられる。
横にいた綺麗な男性が、驚いた声を上げた。
「えっ!?ちょっ…。彼が湊君なの!?」
それが、まるで子供だと言われているようで更に涙が溢れた。
往来で、しかもゲイのいざこざだ。
たとえおれが一人で、周りの視線を集めている気がする。
こういう場所でさえ、大人としてふるまえない。
「とりあえずここじゃ込み入った話もできないね。
うちの店おいでよ。」
綺麗な人はそう言って、綺麗に微笑んだ。
泣き止めないおれの手を航平さんが引いてくれた。
初めて手を繋いでくれた。
それだけでまた、涙が溢れた。