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夏休み(2章親交を深めてみますかと3章愛し合ってみませんかの間位の話、付き合ってない)
庭に出て、一人草むしりをしている。
雑草なんて花は無いとか言うが、今はそんなこと気にしていられない。
ブチブチと土から生える草を引っこ抜く。
祖父は、この緑色の生き物に感情があると信じてずっと研究を続けていた。
俺には本当にこれに心があるかは分からない。
そもそも、感情というものが本当にすべて理解できているかっていえばきっと違う。
だから、感情のありかを知りたいと祖父が夢描いた先を見たいと思って大学を選んだ。
だけど、すでにつまずいている。
全く感情のありかが分からないやつと同居していた。
夏の日差しはじりじりと暑い。
考えるのを止め無心で草を取る。
普通の帽子じゃ意味をなさずホームセンターで買った麦わら帽子の影が地面に落ちる。
こまめに草を抜いてやらないと、庭がジャングルの様になる。
垂れる汗を乱雑に肩で拭いたけど、蒸し暑い。
そう思ったときに、うなじにものすごく冷たいものが触れた。
「ひぁっ……。」
思わず変な声を出してしまった。
睨みながら振り返ると、汗一つかいていない馬鹿が立っていた。
イケメン様は汗もかかないのだろうか。
「顔真っ赤ですねえ。」
面白そうに馬鹿が言った。
それから
「首筋を伝う汗もなめとりたいくらい艶めかしいので、舐めていいですか?」
と頭の湧いた発言をしてくださった。
「良い訳あるか、変態。」
乱暴に汗を拭うと馬鹿の手元を見た。
そこには定番のソーダ味のアイスキャンディーを掴んでいた。
それを俺のうなじに当てたんだろう。
どうりで冷たいわけだと思った。
俺の視線に気が付いてか「食べます?」と聞いてきた。
驚かされたのと気持ち悪いことを言われた慰謝料としてもらっておくのも悪くないと思った。
「もらう。」
熱さと疲れでたどたどしく返した言葉に、馬鹿は、あいつは困ったように笑ってアイスを差し出した。
それはこの前キスをした時に見た表情と少し似ていて困惑する。
どうしたらいいのか分からなくなって、慌ててアイスをひったくるようにして縁側に座った。
軍手を取ってそのまま袋を開けた。
手を洗うとか面倒なことはこの際どうでもいい。
ソーダ味はひそかに一番好きな味だった。
多分草むしりで体が熱くなりすぎていたんだろう。ヤバい位にアイスが美味い。
夢中になっていると、横にあいつが座った。
同居人にしては近すぎるその位置に居心地の悪さを感じる。
ただ、馬鹿って思えていた時期と今は違う。
距離を置こうとした瞬間アイスを持っている方の右手を掴まれる。
それから、手首から肘にかけてベロリと舐められる。
ゾワリとした感触に思わず震えた。
ああ、もっと早く距離を取っておくべきだった、振り払う様に手を動かして後ずさる。
「きたねーだろ。」
「いや、美味しそうでしたよ?」
駄目だ、馬鹿とは会話が成立しない。
脇でゴシゴシと皮が擦り切れる位こすりながら横で自分の分のアイスを取り出し始めた変態を見た。
「食べたいですか?」
イチゴのカキ氷を取り出して口に運びながら聞かれた。
「あんたがイチゴのカキ氷なんて案外渋いとこついてくるから見てただけだ。」
俺がそう言うと、ああと合点がいったようにカキ氷を見た。
「高梨教授が買って持ってきたことがあるんですよ。
これ以外は食べたことありませんね。」
事もなげに言う馬鹿を思わず見つめてしまった。
「じゃあ、俺のは……。」
「ああ、それは高校生が買っていたのでそれでいいかなと。」
問題ありました?と聞かれ首を振る。
「よし、コンビニ行くぞ。」
急に俺が立ち上がると馬鹿が馬鹿面晒して見上げる。
「アイスの食べ比べしよう。」
今日は暑いのだ。
それこそまだまだアイスが食べたいくらいには暑い。
とりあえずか御一杯になった雑草を片付けて、あいつと一緒にコンビニに向かった。
END