バレンタイン小話(2015)

–2015ハッピーバレンタイン–

2月14日土曜日、大学もバイトもない休日。
冬は広い庭の手入れもそれほどなく楽だ。

バレンタインは恋人達と女性同士の為のイベントになっていて今日日義理チョコですら早々貰えない。
いや、そもそも今年は当日が土曜日の事もあって全く俺には関係の無いイベントだと思っていた。

「は?なんだこれは……。」

部屋の掃除をして一段落。
縁側に面した廊下で本を読んでいると、同居人が何時も通りの気持ち悪い笑みを浮かべながら俺の横に腰を下ろした。

相変わらず、整った顔立ちだが、中身は変態馬鹿だ。
残念過ぎる。
俺がもし、この顔だったらさぞかし人生イージーモードだったろうにと思う。

まあ、頼まれてもこいつと顔の交換はしたくは無いが……。

なんだ、こいつも休憩か?等と思っているとそっと差し出されたのは一輪のバラ。
ちょっと意味が分からない。

なんだ?浮気でもしてその詫びなのか?
いや、こいつにそんな申し訳なく思う様な心は無い。

恐る恐る聞いたのがさっきのセリフだ。

「そもそも存在自体が怪しい処刑された宗教家にも、甘ったるいチョコ菓子にも興味は無いのですが、花を贈るというのも偶には良いかな?と思いまして。」

とろける様な、そう形容される笑みを浮かべ言った。

居たたまれない、というか正直めちゃくちゃ恥ずかしくないか?
そもそも、お互いにイベント事にそれほど興味が無いためお祝いすると言ってもぶっちゃけお互いの誕生日位だ。
それも、こいつの誕生日に至っては高梨教授が気を利かせて教えてくれなければそのままスルーされていた、と思う。

ジワジワと赤くなる顔をこいつから逸らした。

「花を贈るのはヨーロッパが主なんじゃないのか?」
「そうなんですか?花なんて誰にもプレゼントした事が無いからそこまでは……。」

恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
普段こういった甘ったるい様な、ぬるまったい様な空気になる事は無い。

はっきり言って免疫が無いのだ。

わーわー叫んで暴れてしまいたい欲求を抑えてそのバラを受け取った。
食べられもしない、生活に無くても構わない花を贈られる事を女性が喜ぶ理由が少しだけ分かった様な気がする。

「俺、何も準備してないぞ。」

憎まれ口がポロリとこぼれる。
我ながら、可愛げの欠片もないな、と思った。

まあ、しょうがない。

「別にかまいませんよ。あなたがこうして隣にいてくれれば。」
「――馬鹿……。」

いつも通り、馬鹿の変態にその事実を伝えたつもりだったのに、その言葉は妙に甘やかな響きを持ってしまった。
失敗した。

恐らく、茹でダコの様に全身を真っ赤にして俯くより他無かった俺は決して悪くない。