二人で歩く帰り道。
今日はデートだった。といっても男同士だから友達と遊びに行ったというのと大して変わらないのかもしれない。
今だって真っ暗で人気のない道なのに、手ひとつ繋いでやしない。
別にずっとそうだったし、これからもきっとそうで、それに不満があるって訳じゃない。
二人っきりの時、甘えたり甘えられたりもしているしそれで充分幸せだった。
ただ、もう少し手を伸ばせば触れられそうなあいつの手を見て、何となく手を絡めてみたくなっただけなのだ。
「あっ。」
もう少しで触れるか触れないかという時、あいつの手がふっと上がった。
そのまま頭上を指さすと「おっ、人工衛星。」と言った。
あいつの指さした先にあるのはまるで星の様で、けれどゆっくりと動いている光だった。
触れられなかった手を少しだけ残念に思いながら、それを隠すみたいにポケットに手を突っ込む。
ぼんやりと人工衛星を見上げながら、それでも一歩一歩二人で並んで進んでいく。
「あれ、子供のころUFOだと思ってたんだよな。」
思い出したことをポツリと言うと、あいつは「俺も思ってた。大発見だと思って大騒ぎしたよな。」と言って笑った。
その時ようやくあいつと目が合う。
「どうした?おれ嫌なことでも言ったか?」
俺の伸ばした手に気が付きもしない癖に、あいつはこういうところには聡い。
「まさか。
同じでちょっと嬉しかっただけだよ。」
点滅していてきれいだな。と俺が言うとあいつは「そうだな」と答えた。
「あー、でも、今は空を見ているより直ぐに家に帰りたいな。」
あいつは少しだけ歩みを早める。
なんだ?と不思議に思っていると「ここじゃあ、秀幸のこと抱きしめられないだろ。」とあいつは言った。
道には誰もいないのに、隣を歩いている俺にしか聞えない位小さな声で囁かれて思わず立ち止まってしまう。
「別に本当に何でもないんだ。」
立ち止まってしまった俺に気が付いて、後ろを振り返るあいつにそう伝える。
「うん、知ってるよ。」
あいつのやさし気に笑う顔が好きだと思った。
「単に俺がそんな気分になっただけだから。」
帰ろうか?とあいつの差し出した手をまじまじと眺めてしまう。
「もう少しで家だからちょっと位いいだろ?」
最初に俺がしてみたかった事なのだ。
それなのに、どうしたらいいのかわからなくておずおずとあいつの手に自分のてを重ねる。
切ないような、少し気恥しいような、ふわふわとした気分だった。
結局、家に帰りつくまで誰もいなくてまるで二人っきりの様な帰り道をあいつの手の温かさばかり気にして歩いた。
了